事業承継税制が「猶予」から「免除」へ。建設業の社長が2027年までに決めておくべきこと

経済産業省は、2027年度(令和9年度)税制改正要望で、事業承継税制を「納税猶予」から「税額免除」へ転換することを求める方針と報じられました。ただし無条件ではありません。賃上げと成長投資に取り組む企業に対象を絞り、要件はむしろ厳しくなる方向で議論されています。

一方で、現行の特例措置には動かせない期限があります。特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、贈与・相続を実際に終わらせる期限は2027年12月31日です。計画の期限は延長されましたが、実行の期限は延長されていません。

本記事では、500社超の建設業を支援してきたシードコンサルティングが、公表されている一次情報をもとに「待つべきか、動くべきか」の判断軸を整理します。

まず押さえておきたい4つの数字

  • 2027年12月31日:特例措置の適用期限
  • 2027年9月30日:特例承継計画の提出期限
  • 1/4〜1/3:潜在活用層のうち実際に使っている割合
  • 2/3:制度を使った企業が賃上げを実現

事業承継税制の「免除化」とは
後継者に自社株を渡した際の贈与税・相続税を、一定の要件を満たすことを条件に納税猶予ではなく税額そのものの免除とする制度転換の方向性を指します。要件としては賃上げと成長投資が想定されており、2026年12月の令和9年度税制改正大綱で結論が出る見込みです。

この記事の前提(重要)

本記事は2026年8月時点で公表されている一次情報および報道をもとにしています。経済産業省の要望内容、および後述する自社株評価の見直しは、いずれも確定した制度変更ではありません。「決まった」ではなく「そういう方向で議論されている」という前提でお読みください。実際の税務判断は、必ず顧問税理士等の専門家にご確認ください。

いま事業承継税制に何が起きているのか

経産省が「猶予」から「免除」への転換を要望

報道によれば、経済産業省は令和9年度税制改正要望において、相続税・贈与税を対象に、現行の「納税猶予後に実質免除」という構造から、税額免除そのものへの転換を求めます。狙いは、税負担が軽くなることの予見性を高めることにあります。

ただし対象は絞られます。免除で浮いた資金を生産性向上や賃上げに振り向ける企業に限る方向で、あわせて賃上げ促進税制の強化、中小企業経営強化税制・中小企業投資促進税制の拡充も要望されると報じられています。制度設計は2026年末にかけて政府・与党内で調整される見込みです。

この話は突然出てきたわけではない

中小企業庁の「中小企業の親族内承継に関する検討会」は、2025年12月12日に中間とりまとめを公表しています。そこには、免除化の検討も、要件の厳格化も、個人資産を集めて納税を免れるケースへの懸念も、すべて書かれていました。つまり報道の8か月前に、設計図は公開されていたということです。

現場でよく見るのは、「新聞に出てから慌てて相談に来る」というパターンです。しかし制度は、報道される1年ほど前から検討会の資料という形で公開されています。ここを先回りして読めるかどうかが、承継の準備期間の長さを決めます。

「締める側」と「開ける側」が同じ大綱で決まる

もう一つ重要なのは、この免除化の議論と並行して、国税庁が取引相場のない株式(自社株)の評価ルールの見直しを議論しているという点です。評価の見直しは、規模の大きな会社ほど評価額が上がる方向に働く可能性があります。

つまり、株価という「分子」を締める議論と、減免制度という「分母」を開ける議論が、同じ2026年12月の税制改正大綱で同時に決着する構図です。片方だけを見て判断すると、必ず読み違えます。

シードの視点|分子と分母は必ずセットで読む

分子(自社株の評価額)が上がり、分母(減免制度)も広がる。どちらが自社にとって大きいかは、会社の規模・純資産の厚み・賃上げ余力によって逆転します。「増税だ」「減税だ」という見出しでは、自社の答えは出ません。

「猶予」と「免除」は、経営上まったく別物である

猶予は「執行猶予」であって「無罪」ではない

現行制度は納税の猶予です。税金がなくなったわけではありません。後継者の貸借対照表には、表に出てこない潜在的な債務が乗り続けている状態です。

だから何が起きるか。取消事由が怖くて、思い切った投資ができない。人を増やせない。株を動かせない。「税金を払わないために、会社を大きくしない」という、本末転倒な判断が生まれます。

一方、免除であれば承継の時点で確定します。後継者は、稼いだお金を全額成長に振り向けられる。ただしその代わり、「成長すること」自体が免除の条件になります。

納税猶予(現行) 税額免除(議論中の方向)
後継者の立場 潜在的な納税義務を抱え続ける 承継時点で負担が確定する
経営判断への影響 取消リスクを意識し、投資・賃上げに慎重になりやすい 成長に資源を振り向けやすい
求められる行動 雇用維持など事業の継続 賃上げ・成長投資(想定)
制度の性格 執行猶予 条件付きの免除

国が「制度が投資と賃上げを止めていた」と認めた

検討会の中間とりまとめは、猶予方式そのものの副作用を明確に整理しています。猶予期間が長すぎて経営者が使いにくいこと、成長するほど納税負担が増すため事業の成長につながらない支出を伴う株価対策を実施する誘因が存在すること、そして結果として一部の中小企業が投資や賃上げを躊躇していること。

国の側が、自らつくった制度が投資と賃上げを止めていたと認めた。ここが今回の転換のいちばんの本質です。そのうえで「例えば10年間事業を継続すれば免除となる等の工夫ができないか」と提示し、同時に「実効性のある課税逃れ防止措置や上限の設定」も必要だと釘を刺しています。

いま確定している期限は2つだけ

議論中の話と、すでに確定している話を混ぜないことが大切です。令和8年度税制改正で確定したのは、次の期限です。

項目 期限 備考
特例承継計画の提出(法人版) 2027年9月30日 令和8年度改正で1年6か月延長
特例措置の適用期限
(贈与・相続の実行)
2027年12月31日 延長されていない
個人事業承継計画の提出(個人版) 2028年9月30日 同2年6か月延長
適用期限到来後のあり方 令和9年度税制改正で結論 令和8年度大綱に明記

計画の期限は延びたが、実行の期限は延びていない

ここを取り違えている会社が非常に多いところです。「延長されたらしい」という話だけが伝わっていて、何が延長されたのかが正確に共有されていません。

延びたのは特例承継計画という書類の提出期限です。実際に贈与や相続を終わらせる期限は2027年12月31日のまま。計画だけ出しても、2027年内に承継そのものを完了しなければ、特例措置は使えません。

使えるのに使っていない会社が3社に2社

中小企業庁の推計では、この制度を潜在的に活用できる層は年間およそ1.1万〜1.2万社。しかし実際の活用は、そのおおよそ4分の1から3分の1にとどまっています。つまり3社に2社は、使えるはずなのに使っていません。

使わない理由として挙げられているのは、適用期限までに事業承継を完了できない、提出期限までに計画を出せない、後継者はいるが経営者としての育成が終わっていない、手続きが煩雑、そして納税猶予が取り消されるリスクがある、というものです。

制度が悪いというより、準備が間に合っていない。これが最大の理由です。そして準備の遅れは、期限が近づくほど取り返しがつかなくなります。

一方で、使った会社には変化が起きている

同じ中間とりまとめによると、猶予額の規模にかかわらず、利用企業の40〜50%が「早期の事業承継に踏み切るインセンティブになった」と回答しています。さらに利用効果として、3分の2の企業が賃上げの実現を、約半数が売上高の増加・財政状況の改善・生産性の向上・設備投資の増加を挙げています。

ただしこれはアンケートに基づく相関であり、制度を使えば賃上げできるという因果を示すものではありません。とはいえ、この「3分の2が賃上げ」という実績が、今回の賃上げ要件化の根拠として使われていることは押さえておくべきです。

建設業にとって「賃上げ要件」は追い風になり得る

建設業はすでに要件を満たしている可能性が高い

公共工事設計労務単価は上がり続け、担い手を確保するために現場の賃金を上げざるを得ない。多くの建設会社にとって、賃上げは選択ではなく必然でした。

他業種が「賃上げできたら世話ないよ」と苦しむ要件を、建設業はすでに満たしている可能性がある。苦労してやってきた賃上げが、承継税制の入場券に変わるということです。

ただし、賃上げの原資がない会社は入場できない

ここが分かれ目です。粗利率が低く、価格転嫁ができていない会社は、そもそも賃上げ要件を満たせません。要件を満たせなければ、免除どころか現行より不利になります。

つまり、価格転嫁と原価管理が、そのまま事業承継対策になった。財務と承継が、制度の側から一本につながったということです。シードコンサルティングが「財務の右腕」で取り組んできた粗利改善と価格転嫁は、これまで「稼ぐ」ための施策でしたが、今後は「遺す」ための条件にもなります。

株価を下げるための支出は、政策の逆風に入る

検討会は、株価対策のための支出を「事業の成長につながらない支出」と明記しました。今後の税制は、株価を下げた会社ではなく、給料を上げた会社を優遇する方向に舵を切る可能性があります。

節税目的で入った保険や、評価を下げるためだけの不動産購入は、目的の再定義が必要になるかもしれません。保険は本来の保障と、納税資金の準備のために使うものへ戻る、という整理が自然です。なお個別の税務上の取扱いは条件によって変わるため、必ず専門家にご確認ください。

経営事項審査にも二重に効く

賃上げ、技術者の確保、省力化投資は、経営事項審査のW点・Z点にも効きます。承継のためにやることが、受注のためにやることと一致する。同じ一手で二つの結果を取れる局面は、そう多くありません。

待つべきか、動くべきか。3つのシナリオと私たちの結論

制度の行方は、大きく3つのシナリオに整理できます。

シナリオ 内容 見立て
A:特例は終わり、後継制度が生まれる 特例措置は2027年末で終了。一定期間の事業継続と賃上げ・成長投資を条件に猶予税額を免除する新制度が創設される。ただし上限設定や課税逃れ防止措置が同時に入り、対象は現行より狭く要件は重くなる 本命
B:免除ではなく評価減 免除は公平性の観点から通らず、一定要件を満たす株式の評価を割り引く制度に着地。猶予構造は残るが負担は軽くなる 対抗
C:決着せず一般措置へ 新制度の合意が得られず、一般措置へ一本化。2027年末を逃した会社の負担は実質的に増える 下振れ

私たちの第一推奨:2027年12月31日を「初期設定」にする

結論から申し上げます。現時点でのシードコンサルティングの第一推奨は、「2027年12月31日までに、現行の特例措置で承継を完了させる」を出発点に置くことです。根拠は3つあります。

  • 新制度は未確定であり、免除には必ず条件が付く。
    賃上げと成長投資を10年守り切れる保証は、どの会社にもありません。要件を満たせなければ、免除どころか現行より不利になります。
  • 株価は上がる方向のリスクが優勢である。
    評価ルールが変わるなら、動かす時点の評価は今のほうが低い可能性が高い。特に純資産が厚い会社ほど、この差は大きくなります。
  • 現行特例は「全株・100%・要件が既知」という、条件の良い枠である。
    未知の制度と既知の制度を天秤にかけるとき、期限が先に来るのは既知のほうです。

ただし、待つ判断が合理的な会社もあります

次のいずれかに当てはまる会社は、新制度を待つという判断も十分に合理的です。無理に動くことをおすすめするものではありません。

  • 後継者が未定、または育成が明らかに未了で、2027年内の代表交代が現実的でない会社
  • 事業の先行きが不透明で、5年間の事業継続要件を負うこと自体がリスクになる会社
  • 賃上げ・成長投資の要件を余裕で満たせる成長企業で、かつ猶予の取消リスクを何より嫌う会社

全社共通で打てる一手=「オプション先取りの原則」

待つ会社にも動く会社にも、共通しておすすめできる手が一つだけあります。特例承継計画を、とりあえず出しておくことです。

計画はA4数枚で、認定経営革新等支援機関の所見が必要なだけ。提出しても、実際に制度を使う義務は生じません。

出さなければ選択肢はゼロ、出せば選択肢が残る。
コストと期待値が明らかに非対称です。期限は2027年9月30日。これを私たちは「オプション先取りの原則」と呼んでいます。

シードコンサルティングは認定経営革新等支援機関(107613009112)として、計画作成の所見記載までを自社で完結して支援できます。

いますぐ着手すべき3つのアクション

1. 自社株の現在評価を知る

評価額がわからなければ、動くべきかどうかも判断できません。制度が固まるのを待つのではなく、制度が固まる前に自分の数字を持っておく。判断材料がない状態で12月の大綱を迎えるのが、いちばん危険です。

2. 賃上げ余力を財務で確認する

賃上げ要件が入るなら、原資があるかどうかが分かれ目になります。案件別の粗利、価格転嫁の状況、2か月先の資金残高。この3つに即答できるかどうかを、まず確認してください。

3. 特例承継計画の提出を検討する

繰り返しになりますが、出しても使う義務はありません。迷っているなら、まず出しておく。動ける状態をつくるのに、どの会社も1〜2年かかります。

【承継準備チェックリスト】次の項目に即答できますか

  • □ 自社株の現在の評価額を把握している
  • □ 後継者が決まっており、代表交代の目標時期が決まっている
  • □ 特例承継計画を提出済み、または提出方針が決まっている
  • □ 直近3年で賃上げを実施しており、その原資の見通しがある
  • □ 案件別の粗利を月次で把握できている
  • □ 価格転嫁の交渉ルール(契約条項)が整備されている
  • □ 経営者保証の解除について金融機関と協議したことがある
  • □ 加入している法人保険の目的(保障/納税資金/株価対策)を説明できる

よくある質問(FAQ)

Q. 事業承継税制は「猶予」から「免除」に決まったのですか?

A. いいえ、決まってはいません。2026年8月時点では、経済産業省が令和9年度税制改正要望として求める方針と報じられている段階です。制度設計は2026年末にかけて政府・与党内で調整され、同年12月の税制改正大綱で結論が出る見込みです。面談やご相談の場でも、私たちは「決まった」ではなく「こういう方向で議論されている」とお伝えしています。

Q. 特例承継計画を出すと、必ず事業承継税制を使わなければいけませんか?

A. 提出したからといって、制度を使う義務は生じません。特例承継計画はA4数枚の書類で、認定経営革新等支援機関の所見が必要ですが、あくまで選択肢を残すための手続きです。提出期限は2027年9月30日。出さなければ選択肢はゼロ、出せば選択肢が残るという非対称性があるため、迷っている段階でも提出を検討する価値があります。

Q. 免除を待ったほうが得ではないのですか?

A. 会社によります。私たちの第一推奨は「2027年12月31日までに現行の特例措置で承継を完了させる」を出発点に置くことですが、後継者の育成が未了である、事業の先行きが不透明で継続要件を負えない、といった会社は待つ判断も合理的です。新制度は免除の条件として賃上げや成長投資が想定されており、その要件を10年単位で守り切れるかが判断の分かれ目になります。

Q. 建設業は事業承継税制の要件を満たしやすいのですか?

A. 賃上げ要件という観点では、建設業は有利に立てる可能性があります。公共工事設計労務単価の上昇と担い手確保のため、多くの建設会社ではすでに賃上げが進んでいるためです。ただし賃上げの原資が必要になるため、粗利率が低く価格転嫁ができていない会社は要件を満たせません。価格転嫁と原価管理が、そのまま承継対策になったとお考えください。

Q. 節税のために入った保険は、今後どうすればよいですか?

A. 中小企業庁の検討会は、株価対策のための支出を「事業の成長につながらない支出」と整理しています。今後の税制が賃上げした会社を優遇する方向に進むのであれば、株価圧縮を主目的とした契約は目的の再定義が必要になる可能性があります。シードコンサルティングでは、既契約の目的を「株価対策」から「保障・納税資金」へ整理し直す棚卸しから支援しています。個別の税務上の取扱いは条件により異なるため、必ず顧問税理士等にご確認ください。

この記事の著者

岡田 聡(おかだ さとし)|株式会社シードコンサルティング 代表取締役

建設・リフォーム業界の中小企業に特化した財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援。100件以上の事業承継案件を手がけた実績を持つ。YouTube「建設業支援TV〜お金のミカタ〜」で業界の経営ノウハウを発信中。日本経営士協会 経営士、(一社)相続事業承継コンサルティング協会 理事・エグゼクティブコンサルタント。認定経営革新等支援機関(107613009112)。

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※本記事は公表されている一次情報および報道をもとに、2026年8月時点の状況を整理したものです。制度は変更される可能性があり、税務上の判断は個別条件により異なります。実行にあたっては必ず顧問税理士等の専門家にご確認ください。

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