自社株の評価ルールが見直しへ。純資産の厚い建設会社ほど注意すべき理由

国税庁は「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」で、非上場株式の評価ルールの見直しを議論しています。きっかけは会計検査院の指摘でした。無作為抽出した1,600件の分析で、類似業種比準価額の中央値が純資産価額の中央値の約4分の1の水準にとどまっていたのです。

報道によれば、簿価純資産と利益から算定する方式に一本化する案が検討され、2028年1月以降の相続への適用を目指すとされています。純資産価額に対する申告評価額の中央値は大会社0.32倍、中会社0.50倍、小会社0.61倍。規模が大きい会社ほど評価が低く出ていたということは、見直せば規模の大きい会社ほど上がるということです。

本記事では、500社超の建設業を支援してきたシードコンサルティングが、この見直しが建設業に何をもたらすのかを整理します。なお、これは確定した制度変更ではありません。

まず押さえておきたい4つの数字

  • 約1/4:類似業種比準価額が純資産価額に対して
  • 0.32倍:大会社の申告評価額(対 純資産価額)
  • 1,600件:会計検査院が分析した申告件数
  • 2028年1月以降:新しい株式評価ルールの適用を目指す方向

自社株評価の見直しとは
非上場企業の株式(取引相場のない株式)の相続税・贈与税評価について、類似業種比準方式のあり方や会社規模区分を再検討し、評価額の実態との乖離を是正しようとする国税庁の制度検討を指します。約60年ぶりの本格的な見直しとして議論されています。

この記事の前提(重要)

国税庁は有識者会議の第4回において、「類似業種比準方式を廃止すると現時点で決定しているわけではない」と明言しています。報道が先行している段階であり、確定した制度変更ではありません。本記事も「決まった」ではなく「こういう方向で議論されている」という前提で記述しています。個別の税務判断は必ず顧問税理士等にご確認ください。

何が起きているのか:会計検査院の指摘から始まった

1,600件の分析で示された「4分の1」

発端は、2024年11月の会計検査院 令和5年度決算検査報告です。無作為に抽出した1,600件の申告を分析したところ、類似業種比準価額の中央値が、純資産価額の中央値の約4分の1の水準にとどまっていることが示されました。

平たく言えば、「会社の中身(純資産)に比べて、相続税を計算するときの株価が低く出すぎているのではないか」という指摘です。これを受けて国税庁は、2026年4月20日から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催しています。

規模が大きい会社ほど、評価が低く出ていた

検査報告が示した数字のうち、経営者が真っ先に見るべきなのは規模別の差です。

会社規模区分 純資産価額に対する申告評価額の中央値 見直しで想定される方向
大会社 0.32倍 評価が上がりやすい
中会社 0.50倍 評価が上がりやすい
小会社 0.61倍 相対的に影響は小さい

現行の歪みが大会社でもっとも大きいということは、是正すれば大会社ほど評価が上がるということです。

報道では、規模の小さい中小・零細はむしろ税負担が減る見通しとも伝えられています。つまり、これは一律の増税ではなく「規模による再配分」に近い性格を持っています。

第5回会議で示された方向性

有識者会議では、類似業種比準方式の見直し・廃止の検討、そして会社規模区分の撤廃といった論点が示されています。報道では、簿価純資産と利益から算定する方式への一本化案が伝えられ、令和9年度税制改正大綱に反映し、2028年1月以降の相続から適用することを目指すとされています。

繰り返しますが、これは決定事項ではありません。国税庁自身が廃止決定を否定しています。ただ、議論の方向としては「評価は実態に近づける=上がる方向」に力が働いていると読むのが自然です。

「分子」と「分母」を同時に読む

株価が分子、減免制度が分母

この評価見直しと並行して、経済産業省は事業承継税制を「納税猶予」から「税額免除」へ転換することを令和9年度税制改正で要望する方針と報じられています。条件は賃上げと成長投資です。

つまり、国税庁が「評価が低すぎる」と締め、経産省が「その代わり真面目に成長する会社は免除する」と開ける。締めと開けを同時にやる、というのが令和9年度改正の全体像です。しかも両方が、同じ2026年12月の税制改正大綱で決着します。

株価という分子だけを見れば増税、減免制度という分母だけを見れば減税。どちらか片方の見出しだけで判断すると、自社の答えを間違えます。私たちはこれを「分子分母の同時読み」と呼んでいます。

もっとも危険なのは、どんな会社か

分子と分母の2軸で整理すると、自社がどのゾーンにいるかが見えてきます。

減免制度に乗れない
(賃上げ・投資が止まっている)
減免制度に乗れる
(賃上げ・成長投資ができる)
株価が高い
(純資産が厚い・規模が大きい)
最も危険なゾーン。
評価は上がるのに、負担を軽くする制度に乗れない
本命ゾーン。
評価は上がるが、免除の対象になり得る
株価が低い
(小規模・純資産が薄い)
影響は相対的に軽微 そもそも基礎控除の範囲で課税されない場合も多い

もっとも危険なのは、左上——純資産が厚く、株価が高く、しかし賃上げも設備投資も止まっている会社です。そしてこれは、建設業に一定数存在する類型です。

なぜ建設業がこの見直しの影響を受けやすいのか

建設業の特性 今回の見直しとの関係
完成工事未収入金・機械装置・不動産・内部留保で純資産が厚くなりやすい 評価が純資産ベースに寄れば、評価額が上がりやすい業種
大型案件の有無で利益変動が大きい 直近数年の利益で評価する方式なら、評価タイミングの巧拙が効いてくる
無配の同族会社が圧倒的に多い 現行の類似業種比準方式では評価が下がる方向に働いていた。その恩恵が縮む可能性がある
労務単価上昇で賃上げが既に進んでいる 賃上げ要件は、建設業にとってもともと満たしやすい要件になり得る
ICT施工・BIM/CIM・省人化投資が進行中 成長投資要件と親和性が高い
建設業許可・経営事項審査という別の規制軸がある 承継時期の設計は税務単独では決められない
後継者不在率が高く、70代経営者が多い 潜在活用層の中核。しかし期限に間に合わない層でもある

無配の同族会社ほど、恩恵が大きかった

現行の類似業種比準方式は、配当・利益・簿価純資産の3要素で評価します。無配の同族会社が多い建設業は、配当という要素で評価が下がる方向に働いてきました。

言い換えれば、建設業はこの方式の恩恵を受けてきた業種のひとつだということです。その方式が見直されるなら、恩恵が縮むのも建設業ということになります。

「うちは無借金だから安心」は、この論点では逆

現場でいちばん多い誤解がこれです。無借金で自己資本比率が高い優良な建設会社ほど、純資産が厚い。純資産が厚いということは、評価見直しで株価が上がるリスクを抱えているということです。

借入があるから危ない、無借金だから安心。財務の健全性としてはそのとおりですが、自社株評価という論点においては、そのまま逆になります。健全に稼いで内部留保を厚くしてきた会社ほど、承継の入口で重い数字を突きつけられる。これが自社株の怖いところです。

株価を下げるための支出は、政策の逆風下に入る

中小企業庁の検討会は、猶予制度の副作用として「成長するほど納税負担が増すため、事業の成長につながらない支出を伴う株価対策を実施する誘因が存在する」と明記しました。株価対策のための支出が、是正すべき企業行動として名指しされた形です。

節税を主目的とした保険や、評価を下げるためだけの資産購入は、今後、目的の再定義が必要になる可能性があります。保険は保障と納税資金のために使うものへ戻る、という整理が自然です。個別の税務上の取扱いは条件により異なりますので、必ず専門家にご確認ください。

建設業の社長がいまやるべきことは、実は1つだけ

まず、自社株の現在評価を知る

評価額がわからなければ、動くべきか待つべきかも判断できません。制度が固まるのを待つのではなく、制度が固まる前に自分の数字を持っておく。判断材料がないまま2026年12月の大綱を迎えるのが、いちばん避けたい状態です。

シードコンサルティングでは、「Seed式資金設計図」による財務の見える化とあわせて、自社株の概算評価から入るケースが多くあります。数字が出た瞬間に、社長の反応が変わることは珍しくありません。「そんなに高いのか」と。

次に、動ける状態をつくる

現行の特例措置で承継を完了させる期限は2027年12月31日、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日です。新しい評価ルールの適用開始想定が2028年1月以降の相続ですから、両者はほぼ隙間なく接しています。

そして、承継を実際に動かせる状態にするには、どの会社も1〜2年かかります。後継者の育成、株主構成の整理、経営者保証、金融機関との調整。「制度が固まってから考える」は、いちばん高くつく選択肢になる可能性があります。

同じ一手で、受注にも効かせる

ここからは前向きな話です。免除の条件として想定されている賃上げ・省力化投資・技術者確保は、経営事項審査のW点・Z点にも効きます。承継のためにやることが、受注のためにやることと一致する。

価格転嫁して、粗利を上げて、給料を上げる。それが受注にも効いて、承継の税金にも効く。同じ一手で二つの結果を取れる局面は、そう多くありません。ピンチというより、準備できる会社にとってはむしろ好機です。

【自社株チェックリスト】次の項目に即答できますか

  • □ 自社株の現在の評価額(概算でも)を把握している
  • □ 自社が大会社・中会社・小会社のどの区分にあたるか知っている
  • □ 純資産価額と類似業種比準価額のどちらで評価されているか把握している
  • □ 株主構成(誰が何%持っているか)を正確に説明できる
  • □ 名義株・分散株の有無を確認したことがある
  • □ 後継者が株式を取得する場合の資金手当てを検討したことがある
  • □ 特例承継計画の提出について方針が決まっている
  • □ 加入している法人保険の目的(保障/納税資金/株価対策)を説明できる

今後のタイムライン

時期 出来事 確度
2026年秋 国税庁 有識者会議のとりまとめ/政府税調・与党税調の議論
2026年12月 令和9年度与党税制改正大綱。評価見直しと免除化が同時に決着
2027年3月 改正法成立・財産評価基本通達の改正
2027年9月30日 特例承継計画の提出期限(法人版) 確定
2027年12月31日 特例措置の適用期限(贈与・相続の実行) 確定
2028年1月〜 新しい株式評価ルールの適用開始(目標)
2028年9月30日 個人事業承継計画の提出期限(個人版) 確定

確定しているのは2027年9月30日、2027年12月31日、2028年9月30日の3つだけです。

それ以外は、まだ議論の途中にあります。だからこそ、確定している期限から逆算して準備を進めるのが、いちばん堅い進め方になります。

よくある質問(FAQ)

Q. 自社株の評価ルールの見直しは、もう決まったのですか?

A. 決まっていません。国税庁は有識者会議の第4回で、類似業種比準方式を廃止すると現時点で決定しているわけではないと明言しています。報道では簿価純資産と利益から算定する方式への一本化案が伝えられていますが、あくまで議論の途中段階です。結論は2026年12月の令和9年度税制改正大綱で示される見込みです。

Q. 見直されると、建設会社の自社株評価は上がるのですか?

A. 会社によって異なります。会計検査院の分析では、純資産価額に対する申告評価額の中央値は大会社0.32倍、中会社0.50倍、小会社0.61倍と、規模が大きいほど低く出ていました。この歪みを是正するなら、規模が大きく純資産の厚い会社ほど評価が上がりやすくなります。逆に規模の小さい中小・零細は負担が減る見通しとも報じられています。建設業は完成工事未収入金・機械装置・不動産・内部留保で純資産が厚くなりやすいため、影響を受けやすい業種と考えられます。

Q. 無借金で自己資本比率が高い会社は有利ではないのですか?

A. 財務の健全性としては有利ですが、自社株評価という論点では逆に働きます。無借金で内部留保が厚い会社ほど純資産価額が高く、評価見直しで株価が上がるリスクを抱えるためです。「うちは借金もないし健全だから大丈夫」という感覚は、承継の場面では通用しないことがあります。まずは現在の評価額を把握することをおすすめします。

Q. いま何から始めればよいですか?

A. 自社株の現在評価を知ることです。評価額がわからなければ、2027年内に動くべきか、新制度を待つべきかの判断ができません。あわせて株主構成の整理(名義株・分散株の有無)と、特例承継計画の提出方針の決定を進めておくと、選択肢を残したまま制度の結論を待てます。シードコンサルティングでは、財務診断と自社株の概算評価から入るケースが多くあります。

Q. 資産管理会社をつくれば株価対策になりますか?

A. 一概には言えません。国税庁側では資産管理会社への純資産価額方式の適用も論点に挙がっており、前提が変わる可能性があります。また中小企業庁の検討会は、事業の成長につながらない支出を伴う株価対策そのものを是正すべき企業行動として整理しています。事業と資産の分離自体には合理性がある場合もありますが、株価対策のみを目的とした設計は今後リスクが高まる可能性があるため、令和9年度税制改正大綱の内容を確認したうえで、必ず税理士等の専門家と設計してください。

この記事の著者

岡田 聡(おかだ さとし)|株式会社シードコンサルティング 代表取締役

建設・リフォーム業界の中小企業に特化した財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援。100件以上の事業承継案件を手がけた実績を持つ。YouTube「建設業支援TV〜お金のミカタ〜」で業界の経営ノウハウを発信中。日本経営士協会 経営士、(一社)相続事業承継コンサルティング協会 理事・エグゼクティブコンサルタント。認定経営革新等支援機関(107613009112)。

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※本記事は公表されている一次情報および報道をもとに、2026年8月時点の状況を整理したものです。制度は変更される可能性があり、税務上の判断は個別条件により異なります。実行にあたっては必ず顧問税理士等の専門家にご確認ください。

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