建設業の自社株の相続はなぜ「亡くなってから」では遅い?相続後の自社株対策とセカンドオピニオンを専門家が解説
この記事はYouTubeでもご覧いただけます。
動画でご覧になりたい方は、
建設業支援TV「お金のミカタ」
をご覧ください。
オーナー経営者の自社株は、亡くなって相続が発生した時点で評価が「ロック」され、原則として後から株価を下げることはできません。
ところが同じ会社・同じ株・同じ評価時点でも、評価のやり方によって株価評価が大きく変わることがあります。ある実例では、同じ株の評価に約4,500万円の差が生まれ、相続税に換算すると約1,800万円もの違いになりました。
だからこそ、生前の準備と、申告前の「セカンドオピニオン」が重要になります。本記事では、100件超の事業承継案件を手がけてきたシードコンサルティングが、創業100年近い内装工事会社の実例をもとに、相続後の自社株対策で見落としがちなポイントを解説します。
| 約4,500万円 評価方法による 自社株評価の差(一例) |
約1,800万円 上記に対応する 相続税の差(一例) |
10ヶ月 相続税申告の 期限 |
純資産2億円 今回の事例企業の 純資産規模 |
自社株のセカンドオピニオンとは、
顧問税理士による相続税申告の内容を、相続・事業承継を専門とする外部の専門家チームが別の視点で検証し、自社株評価や特例活用に見直しの余地がないかを申告期限前にチェックする取り組みを指します。同じ会社でも評価方法によって株価が変わり得るため、税額に大きな影響が出るケースがあります。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務判断については税理士等の専門家にご相談ください。
なぜ「亡くなってから」では自社株対策が遅いのか
オーナー経営者が自社株を後継者(息子など)に引き継ぐ方法には、大きく分けて「生前に引き継ぐ」場合と「亡くなってから相続で引き継ぐ」場合があり、両者には重要な違いがあります。
生前なら評価を下げてから移せる、相続後は原則ロック
生前であれば、自社株の評価は各種の対策によって変動し得ます。株価が高い状態であっても、評価を下げられるタイミングを見計らって、低く引き継げる可能性があります。
一方、今回のように経営者が亡くなって相続が発生してしまうと、その時点の評価で「ロック」され、原則として後から株価を下げることは困難です。高い評価のまま引き継ぐしかなくなる——これが「亡くなってからでは遅い」と言われる理由です。
ただし、相続後であっても、評価方法の見直しや各種特例の活用によって結果が変わる余地は残っています。だからこそ、諦める前に一度チェックする価値があります。
【実例】創業100年・内装工事会社で起きたこと
ここからは、YouTubeをご覧になってご相談いただいた方の実例です(個別が特定されないよう、要点のみご紹介します)。
会社の背景
創業100年近い内装工事会社で、会長であるお父様(90代)がお亡くなりになりました。年商は直近で1億円前後、社員は3名ほど。借入はなく自己資本が高く、創業が長い分、純資産が約2億円しっかり積み上がっていました。内訳は現預金と有価証券が中心で、特に有価証券が多めという構成です。事業としては回っており、それ自体に問題はありませんでした。
会長はお亡くなりになった時点で、自社株の約50%をまだ保有していました。生前に半分は引き継いだものの、「株は最後まで持っておくものだ」という考えから、残り半分は手放されなかったといいます。世代的な価値観もあり、生前に株をすべて移すのは難しかったケースです。
「赤字なのに株価が高い」という落とし穴
社長ご自身は「直近はちょっと赤字だったから、株価はそんなにつかないだろう」という感覚をお持ちでした。ところが、ここに大きな誤解があります。
直近が赤字でも、自社株評価が低いとは限りません。
純資産が大きい会社では、純資産をベースにした評価によって株価が高くなることがあります。
現在の自社株評価では、純資産の割合が評価に強く影響します。純資産が大きい会社は、たとえ直近が赤字でも、純資産をベースにした評価によって株価が高くなることがあるのです。仮に純資産2億円がそのまま評価に反映されれば、株価も相応に重くなります。「儲かっていないのに株価が高い」という状況は、純資産の厚い会社では普通に起こり得ます。
相続発生から8ヶ月、動かない申告準備
ご相談をいただいたのは、相続発生から8ヶ月が経過した時点でした。相続税の申告期限は相続発生から10ヶ月。つまり、残りわずか2ヶ月という切迫した状況です。
にもかかわらず、財産の一覧も自社株評価もなかなか出てこず、「相続財産が結局いくらで、相続税がどれくらいかかるのか」が全く見えない。顧問税理士にお願いはしているものの、明確な回答が返ってこない——社長は強い不安を抱えていらっしゃいました。
これは顧問税理士を責める話ではありません。法人税と、相続・資産税は、いわば「野球とサッカー」ほど業務の性質が異なります。普段の法人顧問業務とは別分野であるうえ、有価証券中心の複雑な資産背景もあり、対応に時間がかかってしまうことは起こり得るのです。
見逃したくない「危険信号」4つ
今回のケースには、次の4つの危険信号がありました。相続税申告を控えたご家庭・会社では、チェックの目安になります。
1. 申告期限の3ヶ月前になっても、財産一覧の書面が出てこない
2. 自社株評価を依頼しているのに、なかなか出てこない
3. 「なんとか払えるでしょう」で話が進み、結局いくらなのかが見えない
4. 小規模宅地等の特例や死亡退職金の非課税枠など、使えるはずの制度の話が一度も出てこない
一つでも当てはまる場合、突然「これだけ払ってください」と言われても対応が難しくなります。早い段階で第三者の目を入れておくことが、安心につながります。
同じ会社でも評価が変わる——自社株評価のポイント
冒頭でお伝えしたとおり、同じ会社・同じ株・同じ評価時点でも、評価の考え方によって株価は変わり得ます。今回、ざっと見立てただけでも、次のような論点が浮かびました。
1. 株式保有特定会社に該当するかどうか
有価証券などの保有割合が一定以上になると、この区分に入り、自社株評価が跳ね上がるケースがあります。
2. 会社規模の区分
今回は小規模な会社(いわゆる小会社)の区分にあたると見られ、これも評価に影響します。
3. 比準要素をどれだけ反映できるか
これらの前提の置き方によって、同じ会社でも評価額が大きく変わってきます。
現在、顧問税理士がどの評価方法で見ているのか、社長ご自身も情報を持っていない状況でした。
評価方法によっては、前述のとおり一例で約4,500万円もの評価差、相続税で約1,800万円の差が生じ得ます。それなりの評価額になるのであれば、セカンドオピニオンできちんと見ておく価値は十分にあります。
※自社株評価の適用区分は個別の事情により異なります。必ず税理士等にご確認ください。
相続税の「手残り」を増やすための打ち手
大切なのは、「払えるか」ではなく「いくら残るか」という視点です。納税資金があるからそれで終わり、ではありません。ご家族のこの先の生活も含めて、手残りを最大化する打ち手が複数考えられます。
各種の非課税枠・特例
今回のケースでは、会長として在籍していた分の死亡退職金の非課税枠、保有不動産に対する小規模宅地等の特例、生命保険の非課税枠、上場株式や土地の評価の見直しなど、複数の枠や制度を活用できる可能性がありました。
これらを組み合わせることで、税額が数百万円、場合によっては1,000万円単位で変わる可能性があります。
金庫株(自己株式の取得)という選択肢
今回の会社には、社内に金融資産が約5,000万円眠っていました。こうした場合、会社が株主から自社株を買い取る「金庫株(自己株式の取得)」を使い、その資金を相続税の納税に充てるという方法が考えられます。
会社にキャッシュがあれば、会社のお金を比較的低い税率で個人に移す「蛇口」として機能する可能性があるわけです。
ただし、金庫株は実行すればよいというものではありません。
どの程度の割合で実行するか、税負担のシミュレーションを行い、どの方法が有利かを慎重に計算する必要があります。
中身をきちんと見なければ判断できないため、専門家による検証が欠かせません。
※金庫株の活用には税務上の要件・留意点があります。実行前に必ず専門家にご相談ください。
シードコンサルティングでは、相続・事業承継の専門家と税理士チームが連携し、時間の限られた中でも、申告前にやれることをチェックする体制で支援しています。
生前にやっておくべき5つのこと
今回の実例から、皆さんにお伝えしたいことは5つあります。
1. 親が元気なうちに、株の話をしておく
相続が発生してからでは、生前にできた対策の多くは打てません。
2. 財産の目録を事前に作っておく
亡くなってからバタバタと洗い出すのは大変です。
3. 申告期限の3ヶ月前に、財産の書面が出ているか確認する
直前まで見えないのは危険信号です。
4. 他人の目(セカンドオピニオン)を入れる
本当にこれで合っているか、別の視点からチェックします。
5. 「払えるか」ではなく「いくら残るか」で考える
方法次第で手残りが1,000万円単位で変わるなら、検討する価値があります。
相続は、ご家族にとって手続き面でも大きな負担になります。金融機関や証券会社への本人確認など、想像以上に煩雑な場面も多いものです。だからこそ、次の世代が楽に引き継げるよう、親世代が元気なうちに準備を始めておくことをお勧めします。
よくある質問(FAQ)
Q. 経営者が亡くなった後でも、自社株の相続税対策はできますか?
A. 生前と比べると打てる手は限られますが、相続後でも対策の余地は残っています。自社株の評価方法の見直しや、小規模宅地等の特例・死亡退職金の非課税枠・生命保険の非課税枠などの活用、金庫株による納税資金の確保といった選択肢が考えられます。申告期限(相続発生から10ヶ月)前であれば、一度専門家に検証してもらう価値があります。個別の適用可否は税理士等にご確認ください。
Q. 直近が赤字の会社でも、自社株の評価は高くなりますか?
A. 高くなる可能性があります。現在の自社株評価では純資産の割合が評価に強く影響するため、純資産が厚い会社は、直近が赤字であっても株価が高く評価されることがあります。「儲かっていないから株価は低いはず」という感覚は、純資産の大きい会社では当てはまらないケースが少なくありません。
Q. 自社株の評価は、依頼する専門家によって変わるのですか?
A. 同じ会社・同じ株・同じ評価時点であっても、株式保有特定会社への該当性、会社規模の区分、比準要素の反映のしかたといった前提の置き方によって、評価額が変わることがあります。ある実例では、評価の差が約4,500万円、相続税で約1,800万円に達しました。だからこそ、申告前のセカンドオピニオンが有効です。
Q. 相続税申告のセカンドオピニオンは、いつまでに依頼すべきですか?
A. 早いほど選択肢が広がります。相続税の申告期限は相続発生から10ヶ月ですが、財産の書面や自社株評価は本来、期限の3ヶ月前までに出そろっているのが望ましい状態です。申告後では見直しが難しくなるため、申告前のできるだけ早い段階での依頼をお勧めします。
Q. 顧問税理士がいるのに、別の専門家に相談してもよいのでしょうか?
A. 問題ありません。法人税と相続・資産税は専門分野が異なり、顧問税理士が相続税を主に扱っていないケースもあります。顧問の先生に申告をお願いしつつ、相続・事業承継の専門家に「別の視点でのチェック」を依頼するのは一般的な進め方です。税額に大きく影響する可能性がある場合ほど、二重のチェックが安心につながります。
この記事の著者
岡田 聡(おかだ さとし)
株式会社シードコンサルティング 代表取締役
建設・リフォーム業界の中小企業に特化した財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援。100件以上の事業承継案件を手がけた実績を持つ。YouTube「建設業支援TV〜お金のミカタ〜」で業界の経営ノウハウを発信中。日本経営士協会 経営士、相続事業承継コンサルティング協会 エグゼクティブコンサルタント。
無料相談のご案内
「自社株の相続、このままで大丈夫だろうか?」「申告前に一度、別の目でチェックしてほしい」という方へ。
相続・事業承継の専門家と税理士チームが連携し、自社株評価や特例活用に見直しの余地がないかを検証します。相続は時間との勝負です。申告前のできるだけ早い段階でご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務判断を行うものではありません。自社株評価、各種特例、金庫株などの適用可否は個別の事情によって異なります。実際の相続・事業承継にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。
