建設業の事業承継はAI時代にどう変わる?変わらない本質と社長が今すべき備えを解説
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「AIが進化すれば、事業承継の悩みは解決するのか?」——答えは「半分は変わり、半分は変わらない」です。
専門家ごとにバラバラだった知識の統合、会社情報の見える化、社長の頭の中にある暗黙知の継承。この3つはAIによって大きく前進します。
一方で、承継を最後に動かすのは人の感情であり、ここはAIには代替できません。建設業の後継者不在率は57.3%と全業種で最も高いなか、AIを「使う領域」と「人が担う領域」を切り分けられる会社こそが、次の世代へバトンをつなげます。
本記事では、500社超の建設業を支援してきたシードコンサルティングの視点から、AI時代の事業承継で「変わること」と「変わらないこと」を整理し、建設業の社長がいまから備えるべきことを解説します。
AI時代の事業承継とは、
専門知の統合・情報の見える化・暗黙知の継承といった「これまで人手では難しかった作業」をAIで加速させつつ、人の感情や信頼関係に関わる最終判断は人が担う、という役割分担で進める事業承継のあり方を指します。
| 57.3% 建設業の 後継者不在率 |
50.1% 全業種の 後継者不在率 |
36.1% 内部昇格が 承継トップに |
12人格 キリンHDの AI役員 |
建設業の事業承継はいま、どんな状況にあるのか
後継者不在率は改善傾向、それでも建設業は全業種でワースト
事業承継は「20年以上前から危機だ」と言われ続けてきたテーマです。実際、帝国データバンクの調査によると、2025年の後継者不在率は全業種で50.1%となり、7年連続で改善が続いています。相談窓口や支援制度が全国に広がったことが背景にあると分析されています。
ただし、建設業は依然として57.3%と全業種で最も高い水準です。ピークだった2018年の71.4%からは改善したものの、住宅建築などの職別工事業では61.3%に達するなど、業界全体としては楽観できない状況が続いています。「仕事はあるのに、継ぐ人がいない」という黒字廃業のリスクは、建設業でこそ現実的な経営課題です。
承継の中身が「脱ファミリー化」し始めている
もう一つ見逃せない変化があります。後継者候補の属性で最も多いのが「内部昇格(社内承継)」の36.1%となり、従来トップだった「同族承継」の32.3%を初めて上回りました。
つまり、「息子に継がせる」以外の選択肢を前提に考える会社が増えているということです。親族内承継、社内承継、M&Aによる第三者承継——どの道を選ぶにしても、数年単位の準備が必要になります。「まだ先」と思っている間に選択肢が狭まるのが、事業承継の怖いところです。
事業承継で「AIによって変わる」3つのこと
事業承継が難しいのは、それが「複雑な問題の集合体」だからです。税理士、弁護士、司法書士、行政書士、中小企業診断士、M&Aアドバイザー——関わる専門家は多岐にわたり、聞く相手によって答えも変わります。
この「専門領域が縦割りで、全体を統合して解決を出しにくい」という構造こそが、従来の最大の壁でした。
AIは、この壁を大きく崩す可能性を持っています。私たちが現場で感じているのは、次の3点です。
1. 分断されていた専門知が「統合」される
これまでは、税務の答え・法務の答え・財務の答えがバラバラに存在し、自社の状況に合わせて全体最適の解を出すのが困難でした。AIは複数領域の知識を横断的につなぎ、「自社のケースではどう考えるべきか」を整理する土台になります。専門家に相談する前の「一次的な壁打ち相手」として、これまで誰に相談していいかわからなかった社長にとって、大きな助けになると考えられます。
2. 会社情報の「見える化」が進む
社内のあちこちに散らばっているファイルや会社情報をAIに読み込ませ、集約・整理させることで、これまでバラバラだった情報がひとつの見取り図として整理できるようになります。財務諸表に表れる数字だけでなく、その裏側にある事業の実態を可視化しやすくなる点は、承継準備の質を大きく左右します。
3. 社長の「暗黙知」が継承しやすくなる
事業承継とは、代表・資産・そして知的資産(技術・理念・暗黙知)を次の後継者へバトンパスすることです。
とくに財務諸表に載らない「社長の頭の中」——どんな考えで意思決定し、どう経営してきたか——は、これまで継承が最も難しい部分でした。この暗黙知をAIが読み込み、整理・再現できるようになれば、後継者も会社も引き継ぎやすくなります。
すでに始まっている「AI×経営」のリアルな事例
「そんなのはまだ先の話」と感じるかもしれません。しかし、AIを経営の中枢で使う動きは、大企業だけでなく建設業でも現実になっています。
大企業の「AI役員」——キリン・三谷産業・三井住友
キリンホールディングスは2025年、経営戦略会議に「AI役員(CoreMate)」を導入しました。財務・デジタル・マーケティングなど専門分野の異なる12の人格を持ち、過去10年分の取締役会・経営戦略会議の議事録などを学習させたうえで、会議中に常時意見を提示する仕組みです。
三谷産業はバーチャルヒューマン「北斗泰山」を「AI社外取締役」候補に内定させ、三井住友銀行(SMBC)はCEOの人格を学習させた「AI-CEO」を登場させています。いずれも、AIが単なる業務効率化ツールから「経営の方向性を示す存在」へと進化していることを示す動きです。
建設業界で「日本初」のAIクローン事業承継
建設業でも象徴的な事例が生まれています。大阪・堺市の進和建設工業では、3代目社長への事業承継を機に、会長に就任する現社長の考え方や会社の理念を学習させたAIクローンのプロトタイプが、AI開発企業のオルツによって開発されました。
建設業界の事業承継でデジタルクローンを活用した事例としては日本初とされています(両社の公表資料および共同通信の報道による/日本初は開発元自社調べ)。多言語対応も可能で、面談・相談・セミナーでの活用が想定されています。
このように、「社長の思いやノウハウをAIで残し、次世代につなぐ」という発想は、もはや構想ではなく実装のフェーズに入りつつあります。
ただし「新技術ゆえのリスク」も直視する
一方で、注意すべき点もあります。前述のAIクローンを開発したオルツは、その後に会計不正(粉飾決算)が発覚し、2025年に民事再生・上場廃止に至りました(日本経済新聞・東洋経済オンライン等の報道による)。技術そのものの価値とは別に、「誰に相談し、誰と一緒に作るか」というパートナー選定のリスクが存在するということです。
とはいえ、いまのAI技術であれば、特別なシステムがなくても「社内に情報さえあれば、それを読み込ませてAI役員のような形にする」ことは、それほど難しくなくなってきています。誰もが作れる時代が近づいているからこそ、一社のベンダーに丸ごと依存しすぎない設計が大切だと私たちは考えています。
AIでも「変わらない」事業承継の本質とは
ここまでAIの可能性を述べてきましたが、私たちが最も強調したいのは「変わらない本質」の存在です。
最後に承継を動かすのは、ロジックではなく「人の感情」
人は何千年も前から喜怒哀楽を持ち、感情で動きます。これは技術がどれだけ進化しても変わりません。
たとえば、こんなことが実際に起こります。お父さん(会長)が息子(社長)への承継を決め、株の移転まで固めて、いよいよ実行という段階になって、「もう一度、俺がやるわ」——いわゆる“ちゃぶ台返し”が起きるのです。
どれだけAIやスキームで「この方法が一番お金が残る」と最適解を出しても、動かすのは人であり、人の心は揺れ動きます。創業から必死に会社を守ってきた社長ほど、存在意義や喪失感、将来への不安から、合理的でない判断に傾くことがあり得ます。
人にしかできない役割は、いつまでも残る
だからこそ、AIが正しい答えを出したからといって、その通りに人が動くとは限りません。ここには、人にしかできない役割があります。
・「このまま進んで、本当に引っかかりはありませんか?」と本音を丁寧に引き上げること
・利害関係の調整と、信頼関係の積み上げ
・小さな意思決定を積み重ねながら、少しずつ前に進めること
・後継者の「覚悟」と、動かす「タイミング」を見極めること
これらは、AIには代替できない領域です。重要な意思決定は人を通してしか決まりません。だからこそ私たちは、「人が主役であり、AIは裏方で使い倒す道具」という位置づけで、膨大な資料の整理や情報の見える化といった重労働をAIに任せながら、最適な答えを社長と一緒に見つけていくプロセスが、これからの事業承継の姿になると考えています。
建設業の社長が今から着手すべき3つのこと
1. 自社の情報を「集約・整理」しておく
決算書はもちろん、案件別の粗利、社内に散らばる各種資料、そして「なぜその判断をしてきたか」という社長自身の考え方。これらを整理しておくことが、承継準備の第一歩であり、将来AIを活用する際の土台にもなります。まずは「バラバラの情報を一箇所に集める」だけでも大きな前進です。
2. 承継の「出口」を選択肢ごとに考え始める
親族内・社内・第三者(M&A)——それぞれに数年単位の準備が必要です。「まだ早い」ではなく「今日が一番早い」という認識で、自社にどの選択肢があり得るかを整理しましょう。後継者不在率が全業種最高の建設業だからこそ、早い着手が選択肢を広げます。
3. AIは「一次的な壁打ち」として、判断は専門家と人が担う前提で使う
AIは情報整理や論点の洗い出しに大いに役立ちます。ただし、税務・法務・株価評価などの最終判断や、家族・後継者との感情面の調整は、専門家と人の役割です。AIの答えを鵜呑みにせず、自社の状況に照らして咀嚼する——この使い分けが成否を分けます。
よくある質問(FAQ)
Q. AIが進化すれば、建設業の事業承継の悩みは解決しますか?
A. 半分は前進し、半分は変わりません。専門知の統合・会社情報の見える化・暗黙知の継承といった「人手では難しかった作業」はAIで大きく加速します。一方、承継を最後に動かすのは人の感情であり、後継者の覚悟やタイミング、家族間の調整はAIには代替できません。シードコンサルティングでは、AIを裏方の道具として活用しつつ、最終判断は人が担うという役割分担を推奨しています。
Q. 「社長AI」や「AIクローン」で事業承継を進めることは現実的ですか?
A. 大企業のAI役員や、建設業界で日本初とされるAIクローン事業承継の事例が実際に生まれており、構想段階ではなく実装のフェーズに入りつつあります。ただし、技術を提供するベンダーの経営リスクなど、パートナー選定には注意が必要です。一社に丸ごと依存しない設計と、人による最終判断を前提に検討することをおすすめします。
Q. 建設業の後継者不在率はどのくらいですか?
A. 帝国データバンクの2025年調査では、建設業の後継者不在率は57.3%で、全業種の中で最も高い水準です。全業種平均の50.1%を約7ポイント上回っています。改善傾向にはあるものの、住宅建築などの職別工事業では61.3%に達するなど、依然として深刻な状況が続いています。
Q. 社長の「暗黙知」や理念は、どうやって次世代に引き継げばよいですか?
A. まずは社内の資料や社長自身の考え方を文章・データとして「見える化」しておくことが出発点です。財務諸表に載らない技術・理念・意思決定の考え方を整理しておくことで、後継者への引き継ぎがしやすくなり、将来的なAI活用の土台にもなります。シードコンサルティングでは、月次で伴走しながらこうした情報の棚卸しを支援しています。
Q. AIを事業承継に使うと、専門家への相談は不要になりますか?
A. いいえ、むしろ役割の切り分けが重要になります。AIは論点の洗い出しや情報整理といった「一次的な壁打ち」に有効ですが、税務・法務・株価評価などの専門判断や、感情面の調整は専門家と人が担う領域です。AIと専門家を併用することで、これまで難しかった全体最適の解に近づきやすくなると考えられます。
この記事の著者
岡田 聡(おかだ さとし)
株式会社シードコンサルティング 代表取締役
建設・リフォーム業界の中小企業に特化した財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援し、100件以上の事業承継案件を手がけた実績を持つ。同社(株式会社シードコンサルティング)は認定経営革新等支援機関の認定を受けている。YouTube「建設業支援TV〜お金のミカタ〜」で業界の経営ノウハウを発信中。日本経営士協会 経営士、(一社)相続事業承継コンサルティング協会 理事・エグゼクティブコンサルタント。
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「うちの会社は、AIをどこまで承継に活かせるのか?」「そもそも何から準備すればいいのか?」という方へ。御社の財務データと現状に基づき、承継に向けた課題と具体的な打ち手を一緒に整理します。
月次伴走型の「財務の右腕」、建設業特化の「事業承継ドック」など、状況に応じたご提案が可能です。
参考・出典
- 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」
- キリンホールディングス発表および報道/AI役員「CoreMate」
- 大和総研/三谷産業「AI社外取締役」関連資料
- 三井住友銀行(SMBC)「AI-CEO」関連報道
- IoTNEWS/建設業界で日本初とされるAIクローン事業承継
- 日本経済新聞・東洋経済オンライン等/オルツの会計不正・民事再生・上場廃止に関する報道
※本記事は公開情報および当社の支援実績に基づく一般的な解説であり、個別の税務・法務判断を保証するものではありません。実際の事業承継にあたっては専門家にご相談ください。
