事業承継促進枠とは?「株を渡さない承継」が補助金の対象外になる理由を建設業向けに解説

公開日:2026/10/14

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「息子に社長を譲ったから、事業承継の補助金がもらえるはず」——これは誤解です。

事業承継・M&A補助金の「事業承継促進枠」は、経営権(代表者)と所有権(自社株)の両方が後継者に移ることを条件に、親族内・従業員承継に伴う設備投資などを最大800万円(賃上げ要件を満たせば1,000万円)まで補助する制度です。

直近の公表データでは採択率が約6割と比較的高く、株を動かす決断をした会社にとっては使い勝手のよい補助金といえます。

事業承継促進枠とは
5年以内に親族内承継または従業員承継を予定している中小企業が、承継を機に行う設備投資や店舗改装などの経費の一部を国が補助する、事業承継・M&A補助金の申請枠のひとつです。

事業承継促進枠とはどんな補助金?M&A以外の承継も対象になる

M&Aだけでなく「親族内・社内承継」のための枠

事業承継・M&A補助金と聞くと、多くの社長は「M&Aの仲介手数料やデューデリジェンス費用に出る補助金」をイメージされると思います。実際、専門家活用枠はそうした費用が中心です。

しかし、中小企業の承継で数として多いのは、外部へのM&Aよりも親族内承継や、幹部社員に継がせる従業員承継です。そこに使える補助金がないのはおかしい——という流れでできたのが「事業承継促進枠」です。

国は「M&Aだけでなく、社内での承継にもきちんと補助金を出す」というメッセージを出しているわけです。

補助上限・補助率の基本

16次公募の公募要領では、事業承継促進枠の主な条件は次のとおりです。

項目 内容
補助上限額 800万円(賃上げ要件を満たす場合は1,000万円)
補助率 1/2以内(小規模事業者等は2/3以内)
対象 5年以内に親族内承継・従業員承継を予定している中小企業等
申請方法 電子申請(jGrants)。GビズIDプライムが必要

※2026年10月6日時点の16次公募情報です。補助下限額や賃上げ要件などの詳細は、公募回ごとに最新の公募要領をご確認ください。

「800万円もらえる」には1,600万円の投資が必要

ここは勘違いされやすいところです。補助率1/2の場合、800万円の補助を受けるには1,600万円の補助対象経費を使う必要があります。小規模事業者(補助率2/3)なら、1,200万円の経費で800万円が上限に届く計算です。

「承継すればお金が出る」のではありません。
承継を機に一定の要件に沿った投資をしたとき、その経費の一部が補助される仕組みです。

社長を交代しただけでは補助金が出ない理由とは?

国が認める「事業承継」は経営権と所有権の両方の移転

公募要領には、補助対象となる事業承継の定義が明確に書かれています。ポイントは次の2つが両方とも後継者に移ることです。

1.経営権
登記上、代表取締役が後継者に交代していること

2.所有権
自社株が後継者に移っていること(親族内承継なら、親から子の後継者へ)

そして、これを定められた期限内(16次公募では申請受付締切日から5年以内とされています)に完了することが求められます。すぐにすべてを終える必要はありませんが、「いつか渡す」では要件を満たしません。

補助対象にならない4つのケース

逆に、次のようなケースは「実質的な事業承継」とは認められず、対象外とされています。

  • 代表者の交代だけで、株が移っていない
  • グループ内の事業再編
  • 物品・不動産のみを保有する事業の承継(資産管理会社など)
  • 休眠会社や事業実態のない会社の代表者交代

この中でいちばん影響が大きいのは、1つ目の「代表交代だけ」です。現場でよく見るのは、「社長の肩書きは息子に譲ったけれど、株は自分が死ぬまで持っておく」という形。これは補助金の世界では承継が終わっていないと見なされます。

後継者側の要件もチェックされる

後継者についても、役員として3年以上の経験がある、3年以上継続して雇用されている、または被承継者の親族である——といった要件が設けられています。後継者が社内でしっかり育っているかも見られる、ということです。

なぜ国はここまで「株を動かせ」と言うのか?

株を持ち続ける「影の社長」が成長を止めている

ここからは、私たちシードコンサルティングの見立て(仮説)です。

国がここまで株の移転にこだわる理由は、株が動かないことが中小企業の成長と生産性を止めていると考えているからではないでしょうか。

40代の社長と60代の社長では、一般に40代のほうがIT・DX・AIへの対応も早く、若い人材の採用にも積極的で、前向きな設備投資にも踏み切りやすい傾向があります。だからこそ社長の若返りは重要です。

ところが、社長は若返っても株は先代が握ったまま——という会社が少なくありません。そうなると、新社長が前向きな手を打っても、「わしのやり方と違う」と最後にひっくり返されてしまう。

最終的な議決権を持っていなければ、重要な決定は下せないのです。これでは、名ばかりの承継になってしまいます。

中小企業庁と国税庁、2つの窓口が同じ方向を向いている

実は今、国の2つの窓口が同じ方向を指しています。

中小企業庁
「株を動かすなら補助金を出す」(事業承継・M&A補助金)

国税庁
「株を持ち続けるなら、その評価を見直す」(非上場株式の評価方法の見直し)

国税庁は2026年4月から

「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」

を開催し、非上場株式の評価方法の見直しを議論しています。会議資料では、類似業種比準価額が純資産価額に比べて大きく低く算定されている実態などが問題点として挙げられています。

株価評価の見直しは「方向性」は見えてきたが、まだ確定ではない

報道や専門家の解説では、会社規模区分の廃止や、類似業種比準方式に代わる「収益力」を重視した評価方法への転換などが方向性として示されています。収益力の高い会社ほど評価額が上がる可能性があり、専門家の間では「数倍になるのでは」という試算も出ています。

制度改正はまだ確定していません。
2026年秋の時点では、新しい計算式も適用開始時期も正式決定していません。「2028年以降の適用ではないか」といった推測もありますが、確定情報ではない点にご注意ください。とはいえ、ここまで議論が進んでいる以上、大きな方向性が覆る可能性は低いと私たちは見ています。

補助金・事業承継税制・株価評価の見直しをどう組み合わせる?

2027年末に向けて、複数の制度が同時に動いている

事業承継の周辺では、いくつもの期限が重なっています。

事業承継・M&A補助金
公募回ごとに申請期限が設定されています。16次公募の締切は2026年11月6日17時です。

事業承継税制(特例措置)
特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、特例措置の対象となる贈与・相続の期限は2027年12月31日です。

非上場株式の評価見直し
評価方法の見直しについて議論が進んでいますが、新しい計算方法や適用開始時期は正式決定していません。

これらをバラバラに考えるのではなく、組み合わせて設計することが重要です。

事業承継税制の仕組みや自社株評価への影響については、
こちらの記事「建設業の事業承継税制とは?自社株評価と納税猶予・免除を解説」
でも詳しく説明しています。

3段階で考える承継設計

私たちがおすすめしているのは、次の3段階の考え方です。

1.承継の計画を立て、補助金を使える状態にする
5年以内の承継を前提に計画を作り、承継を機にした投資に補助金を活用する。

2.税制の特例を検討する
事業承継税制の特例措置が使えるかを、期限から逆算して確認する。

3.株価評価が変わった場合のシミュレーションをしておく
見直しが適用された場合に自社の株価がどう動くかを試算し、必要な対策を検討する。

税制の適用可否や株価の試算は会社ごとに大きく異なります。具体的な判断は、税理士などの専門家にご相談ください。

承継を「成長の機会」として投資につなげる

事業承継促進枠は、設備投資、店舗や事務所のリニューアル、ITシステムの入れ替えなど、代替わりを機に行う前向きな投資を後押しする補助金です。

単に会社を引き継ぐのではなく、承継を成長のきっかけにしてほしい——国の意図はそこにあります。

なお、建設業の場合、車両などの経費には対象外となるものがあります。投資計画を立てる段階で、公募要領の対象経費・対象外経費を必ず確認しましょう。

申請前に確認すべき3つのこと

事業承継促進枠を検討するなら、まず次の3点を確認してください。

ステップ1:株主名簿を確認する

誰が何%の株を持っているか、正確に把握できていますか。

補助金の申請をきっかけに株主名簿を見直すと、「亡くなった親族の名義が残っていた」「創業時の名義株がある」といったことが見つかるケースは少なくありません。分散した株をどう集約するかは、承継の大切な論点です。

ステップ2:後継者の在籍年数を確認する

後継者が役員として、または従業員として何年在籍しているかを確認しましょう。後継者がきちんと育っているかは、要件上も、経営上も重要です。

ステップ3:GビズIDプライムを取得しておく

電子申請にはGビズIDプライムが必須です。取得には時間がかかる場合があるので、申請を考え始めた段階で早めに手続きしておきましょう。

株の移転を「話し合いのきっかけ」に

※以下は、よくあるケースをもとにした説明用の例です。実際の支援事例を特定するものではありません。

ある専門工事業の会社では、60代後半の先代が数年前に代表権を40代の長男に譲っていましたが、株の大半は先代が持ったままでした。

新社長は現場のDX化や新しい重機の導入を進めたいと考えていたものの、大きな投資のたびに先代の了承が必要で、意思決定が遅れがちでした。

補助金の検討をきっかけに株主名簿を確認したところ、株の承継が終わっていないため、事業承継促進枠の要件を満たしていないことがわかりました。

そこで、自社株の評価額を試算したうえで、事業承継税制の活用も含めた株の移転スケジュールを作成。親子だけでは切り出しにくい話を、第三者の専門家が間に入って整理することで、承継に向けた話し合いを進めていくことができます。

シードコンサルティングでは、500社超の建設業を支援し、100件以上の事業承継案件に関わってきました。その中で実感するのは、承継で一番難しいのは制度ではなく、親子で「株の話」を始めることだということです。

補助金の締切は、その話し合いを始める格好のきっかけになります。

まとめ:補助金の締切を「株の話」を始めるきっかけに

  • 事業承継促進枠は、経営権と所有権の両方が後継者に移ることが条件。社長交代だけでは対象外
  • 補助上限は800万円(賃上げで1,000万円)、補助率1/2(小規模事業者等は2/3)。14次公募の採択率は約6割
  • 国は補助金と株価評価の見直しの両面から、事業承継を促していると考えられる
  • 補助金・事業承継税制・株価評価見直しを組み合わせて設計することが大切

16次公募に間に合わなくても、今後新たな公募が行われる可能性があります。大切なのは、締切という「期限」を持って、承継や株の問題に向き合うことです。

「親父、そろそろ株のことと承継計画の話をしよう」——その一言を切り出すきっかけとして、この補助金を活用してみてください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 息子に社長を交代しただけで、事業承継促進枠の補助金はもらえますか?

A. もらえません。事業承継促進枠では、代表者の交代(経営権)に加えて、自社株(所有権)も後継者に移ることが条件です。代表者の交代だけのケースは対象外と公募要領に明記されています。シードコンサルティングでは、補助金の検討を機に株主名簿や株の移転計画から整理するご支援をしています。

Q2. 事業承継促進枠の補助金はいくらまで受け取れますか?

A. 補助上限は800万円で、賃上げ要件を満たす場合は1,000万円まで引き上げられます。補助率は原則1/2、小規模事業者等は2/3です。上限の800万円を受け取るには、補助率1/2の場合で1,600万円の対象経費が必要になります。詳細な要件は公募回ごとに確認が必要です。

Q3. 事業承継・M&A補助金の採択率はどのくらいですか?

A. 14次公募の事業承継促進枠では、申請169件に対して採択103件、採択率は約6割と公表されています。採択率は公募回によって変動する可能性があり、必ず採択されるわけではありません。事業計画の内容や要件を確認し、早めに準備することが重要です。

Q4. 16次公募に間に合わない場合はどうすればいいですか?

A. 今後の公募が実施される場合に備えて、株主名簿の確認や後継者との話し合い、投資計画づくりを進めておきましょう。次回以降の公募が行われるかどうかは、公式サイトの最新情報をご確認ください。シードコンサルティングでは、次回公募を見据えた準備からご相談をお受けしています。

Q5. 非上場株式の評価見直しで、自社株の評価額は上がるのですか?

A. 2026年秋時点では、新しい評価方法も適用時期も正式には決まっていません。ただし、収益力を重視する方向で議論が進んでおり、利益を出している会社ほど評価額が上がる可能性があると指摘されています。自社への影響は会社ごとに異なるため、まずは現状の株価を把握し、税理士などの専門家にご相談ください。

この記事の著者

岡田 聡(おかだ さとし)

株式会社シードコンサルティング 代表取締役

建設・リフォーム業界の中小企業に特化した財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援。100件以上の事業承継案件を手がけた実績を持つ。YouTube「建設業支援TV〜お金のミカタ〜」で業界の経営ノウハウを発信中。日本経営士協会 経営士、相続事業承継コンサルティング協会 エグゼクティブコンサルタント。株式会社シードコンサルティングは認定経営革新等支援機関の認定を受けています。

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参考資料

※本記事は2026年10月時点の公表情報に基づく一般的な解説です。補助金の募集条件・申請期限・対象経費は公募回ごとに変更される場合があります。また、税制・株価評価の見直しには未確定の事項が含まれます。最新の公募要領や公的機関の発表をご確認のうえ、個別の税務判断については税理士等の専門家にご相談ください。

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