建設業の事業承継税制とは?自社株の相続税が8.6倍になる会社と免除される会社の違いを解説
公開日:2026/10/11
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非上場株式の相続税評価が60年ぶりに見直される見込みです。ある税理士の試算では、売上17億円規模の建設会社で自社株の相続税評価が1,100万円から9,300万円へと約8.6倍に跳ね上がるケースが示されました。一方で、評価が下がる会社もあります。
この差を生む「新しい株価評価ルール」と、増えた税負担を軽くする切り札「事業承継税制」の最新動向について、500社超の建設業を支援してきたシードコンサルティングが、いま建設会社の社長が知っておくべきポイントを整理して解説します。
事業承継税制とは
後継者が自社株を引き継ぐ際に発生する贈与税・相続税の納税を、一定の要件のもとで猶予・免除できる制度です。円滑な世代交代を後押しすることを目的とした国の支援制度です。
いま、この事業承継税制と、その前提となる自社株の評価ルールの両方が、大きく変わろうとしています。まずは「なぜ株価が上がってしまうのか」という土台の話から見ていきましょう。
60年ぶりに変わる「自社株評価」で、建設会社に何が起きるのか
評価が上がる会社と下がる会社に分かれる
今回の見直しの土台にあるのが、非上場株式の相続税評価ルールの変更です。現行の評価方法である「類似業種比準方式」を使うと、規模の大きい会社ほど評価額が下がりやすいといった不均衡が指摘されてきました。この不平等を是正しようという流れが、60年ぶりのルール見直しにつながっています。
日本経済新聞に掲載された、ある税理士の試算では、新制度になったときに評価が上がる会社と下がる会社が具体的に示されています。
| 会社の例 | 現行の評価額 | 新制度での評価額 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 塗装業・売上1億円規模 | 460万円 | 330万円 | ▼ 下がる |
| 工事業・売上17億円規模 | 1,100万円 | 9,300万円 | ▲ 約8.6倍 |
※上記はいずれも日本経済新聞で紹介された税理士による試算例であり、実際の評価額は各社の財務状況によって異なります。表中の金額は相続税額ではなく、自社株の相続税評価額です。
「真面目に成長してきた会社」ほど税負担が重くなる
注目すべきは、評価が上がるのがどんな会社かという点です。借入をきちんと減らし、内部留保を積み上げてきた——いわば真面目に堅実経営をしてきた会社ほど、株価評価が上がってしまいます。
自社株を引き継ぐのは後継者です。後継者は個人として贈与税・相続税の負担や、株式の買い取り資金を考えなければなりません。自社株の評価額が9,300万円になったとしても、その金額がそのまま税額になるわけではありませんが、後継者にとって大きな負担につながる可能性があります。
結果として「継ぎたい」という気持ちにブレーキがかかってしまう——これが、いま建設業界で起きつつある大きな問題です。
現場でも「うちの会社の株なんて、そんなに価値があるとは思っていなかった」という社長が少なくありません。しかし堅実に利益を残してきた会社ほど、いざ承継のときに評価額の高さに驚くことになります。
建設会社の切り札「事業承継税制」の現状と課題
「免除」ではなく「猶予」というわかりにくさ
上がってしまった評価に対して税金を払えない後継者のために用意されているのが、事業承継税制です。この制度を使うと、一定の要件を満たす場合、自社株にかかる贈与税・相続税の納税が猶予されます。
「猶予」と「免除」は違います
猶予は、税金の支払いを先送りすることです。一方、免除は、一定の要件を満たすことで納税義務がなくなることを指します。事業承継税制には免除の仕組みもありますが、制度を利用した時点で無条件に免除されるわけではありません。
将来、一定の要件が外れると、猶予されていた税金を一括で払わなければならない可能性があります。
「息子に、いつ爆発するかわからない税金のプレッシャーを持たせていいのか」——このわかりにくさが、制度の使い勝手を悪くしてきました。
3社に2社が使っていないという現実
国は、事業承継税制を使える対象が1万件程度あるのではないかと試算していました。ところが実際に利用しているのは、そのうち3分の1程度にとどまっているといわれています。つまり、使える可能性のある会社の3社に2社が使っていないという状況です。
使われない主な理由として、以下のような点が挙げられます。
- 提出・実行の期限までに承継の準備が終わらない
- 後継者の育成が間に合っていない
- 手続きが煩雑で負担が大きい
- 将来、猶予が取り消されるリスクがある
「良い制度に見えるけれど、実際には使いきれない」——私たちのもとにも、こうしたご相談が数多く寄せられています。
「猶予」から「免除」へ——事業承継税制はどう変わろうとしているのか
国が認めた「制度が成長のブレーキになっている」という問題
ここからが、今回の朗報にあたる部分です。国は、現行制度についてこう認めています。「成長するほど納税負担が増すため、事業の成長につながらない支出を伴う株価対策を実施する企業が存在する」。
つまり、本来は成長するポテンシャルのある会社が、株価が上がると税負担が重くなるために、あえて過度な節税や株価を下げる対策に走らざるを得なくなっている。これは成長にブレーキをかけているのではないか、という問題意識です。
「賃上げに協力した会社」を優遇する方向へ
そこで検討されているのが、成長意欲をそがずに成長する会社にこそメリットを与えるという発想の転換です。株価を下げた会社ではなく、給料を上げた会社・賃上げに協力した会社を優遇する方向で議論が進んでいます。
これは建設業にとって追い風になり得ます。建設業はもともと人件費を上げ、賃上げに取り組んできた会社が多い業界です。価格転嫁を進め、原価管理を徹底し、きちんと利益を上げて賃上げに協力してきた会社ほど、今後は事業承継税制のメリットを受けられる可能性が出てきました。
今回の制度見直しで注目したいポイント
株価を下げることを重視する従来の対策から、賃上げや成長投資に取り組む会社を後押しする方向への転換が検討されています。
そして最大のポイントが、「猶予」から「免除」への切り替えが検討されているという点です。要件はやや厳しくなる見込みですが、猶予ではなく免除となれば、制度の使いやすさは大きく変わります。
※新制度の具体的な基準や適用開始時期は、本記事の作成時点(2026年9月)では確定していません。今後、正式な制度内容が公表され次第、情報を更新してお伝えします。
いつまでに、何をすればいいのか——2つの重要な期限
事業承継税制の特例措置を使うには、2つの期限があります。
| 期限 | 内容 |
|---|---|
| 2027年9月30日 | 特例承継計画の提出期限 |
| 2027年12月31日 | 特例措置の対象となる贈与・相続の実行期限 |
まず、特例承継計画の提出期限です。もともとは2026年3月31日でしたが、令和8年度税制改正により1年6か月延長され、2027年9月30日までとなりました。
次に、贈与・相続の実行期限です。こちらは延長されておらず、2027年12月31日までに実際の株の贈与・相続を実行する必要があります。
注意したいのは、2つの期限の間が約3か月しかないことです。
特例承継計画の提出を2027年9月30日ぎりぎりまで待つと、贈与・相続の実行期限までほとんど時間が残りません。承継には準備が必要なため、早期着手が欠かせません。
なお、新しい株価評価ルールについては、2028年1月以降に適用される見込みとされています。ただし、適用時期は正式決定を待つ必要があります。
では、いま何から始めればよいのでしょうか。着手すべきことは、次の3つです。
1.自社株の評価を把握する
「自分の会社の株がいくらの評価になるのか」を知ることが、すべての対策の出発点です。
2.特例承継計画を提出しておく
実際に制度を使うかどうかは別として、選択肢を確保しておく意味で、計画を提出しておくことは有効です。
3.賃上げにつながる利益を確保する
価格転嫁や原価管理を進め、賃上げできる経営体質をつくることが、新制度の優遇要件につながる可能性があります。
この記事のまとめ
自社株評価の見直しにより、堅実に成長してきた建設会社ほど相続税評価が上がり、後継者の税負担が重くなる可能性があります。その一方で、事業承継税制は「猶予」から「免除」へと、賃上げに取り組む成長企業を後押しする方向へ変わろうとしています。
制度の詳細が固まるのを待つのではなく、まずは自社株の評価を知り、特例承継計画という選択肢を確保しておくこと。それが、変化の前にできる最も確実な備えです。
シードコンサルティングでは、20年以上・500社超の建設業支援、100件超の事業承継の実績をもとに、決算書をお預かりして自社株評価の診断から対策までを丁寧にサポートしています。
「新制度に切り替わる前に何をすべきか」でお悩みの社長は、ぜひ一度ご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 事業承継税制の「猶予」と「免除」は何が違うのですか?
A. 猶予は税金の支払いを先送りしている状態で、一定の要件が外れると猶予された税金を一括で納める必要が生じる可能性があります。一方、免除は税金そのものを納めなくてよくなる状態です。現行制度は原則として猶予ですが、賃上げなどに協力した成長企業を対象に、免除へ切り替える方向で検討が進んでいます。詳細は正式決定を待つ必要があるため、専門家にご相談ください。
Q2. 自社株の相続税評価はなぜ会社によって上がったり下がったりするのですか?
A. 現行の「類似業種比準方式」では、会社の規模や財務内容によって評価額に差が出ます。今回の60年ぶりの見直しでは、これまで評価が低く出ていた大規模企業の評価が上がり、逆に一部の会社は下がるといった変化が試算されています。借入を減らし内部留保を積み上げてきた堅実な会社ほど、評価が上がりやすい傾向があります。
Q3. 特例承継計画はいつまでに提出すればいいですか?
A. 特例承継計画の提出期限は、令和8年度税制改正での延長により2027年9月30日までとなりました。ただし、贈与・相続の実行期限は2027年12月31日のままです。計画提出をぎりぎりまで待つと実行までの猶予が約3か月しか残らないため、早めの着手をおすすめします。シードコンサルティングでは計画作成から実行までのロードマップ設計を支援しています。
Q4. 建設業は事業承継税制の優遇を受けやすいのですか?
A. 新制度では、賃上げに協力した会社・成長する会社を優遇する方向で議論されています。建設業は人件費を上げ、価格転嫁や原価管理を進めて賃上げに取り組んできた会社が多いため、優遇の対象になり得る可能性があります。ただし要件の詳細は確定していないため、自社が対象になるかは個別の診断が必要です。
Q5. まず何から始めればいいですか?
A. まずは自社株の評価を把握することです。「自分の会社の株がいくらになるのか」を知ることが、対策の出発点になります。そのうえで、特例承継計画を提出して選択肢を確保し、利益を確保して賃上げにつなげていく——この3つが、変化の前にできる備えです。シードコンサルティングでは決算書をもとにした自社株評価の診断を行っています。
この記事の著者
岡田 聡(おかだ さとし)
株式会社シードコンサルティング 代表取締役
建設・リフォーム業界の中小企業に特化した財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援。100件以上の事業承継案件を手がけた実績を持つ。YouTube「建設業支援TV〜お金のミカタ〜」で業界の経営ノウハウを発信中。日本経営士協会 経営士、相続事業承継コンサルティング協会 エグゼクティブコンサルタント。
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※本記事は制度の一般的な解説であり、法的・税務的な助言を目的とするものではありません。個別の税務判断については、必ず税理士等の専門家にご相談ください。制度の詳細は今後変更される可能性があります。
