建設業の「新事業進出・ものづくり補助金」とは?統合後の制度変更点と勝ち筋を解説

カテゴリ:補助金活用

ものづくり補助金と新事業進出補助金が統合され、「新事業進出・ものづくり・商業・サービス補助金」として第1回公募が始まりました。

最大の変更点は、1回の申請で選べる枠が1つだけになったこと、そして賃上げ・付加価値要件が、すべての枠で必須になったことです。

本記事では、500社を超える建設業を支援してきたシードコンサルティングの知見をもとに、制度の全体像と、建設業がこの補助金で採択を目指すために押さえるべき条件を解説します。

最大9,000万円
新事業進出枠の
補助上限(特例時)
年3.5%以上
給与支給総額の
賃上げ要件
1申請1枠
今回から
併願不可
10月30日
第1回公募の
申請締切

新事業進出・ものづくり・商業・サービス補助金とは
自社にとっての新規性である「新市場性」、または「高付加価値性」のいずれかを示す事業に対し、賃上げと付加価値の創出を条件として、設備投資や新事業展開を支援する国の補助制度です。

旧ものづくり補助金と旧新事業進出補助金が統合され、2026年に第1回公募が実施されています。

何が変わったのか――建設業経営者が押さえるべき3つの制度変更点

1.窓口の一本化と「一枠一発の原則」

これまでは、ものづくり補助金と新事業進出補助金を同時に申請することができました。

しかし統合後は、同じ補助金の中に設けられた異なる枠という扱いになったため、1回の公募で選べる枠は1つだけです。

一枠一発の原則
シードコンサルティングでは、今回の変更を「一枠一発の原則」と呼んでいます。最初の枠選びを外さないことが、これまで以上に重要になりました。

設備を選んでから、後で申請枠を決めるのではありません。

自社が本当にやりたいことを基準に、どの枠で申請するのが適切なのかを最初に判断する必要があります。

枠を間違えると、その公募回では別の枠へ申請し直すことができず、次の機会は次回公募まで待つことになります。

2.省力化だけでは対象外に

既存の製品・サービスの生産プロセス改善や、生産性向上だけを目的とした投資は、今回から対象外になりました。

単に古い機械を新しい機械へ入れ替えるだけの計画ではなく、新製品や新サービスの開発を伴う必要があります。

投資の主目的が省力化・生産性向上の場合
新事業進出・ものづくり補助金ではなく、省力化投資補助金を検討する方が適している可能性があります。

自社の計画が、新製品・新サービスの開発を目的としているのか、それとも既存事業の効率化を目的としているのかを、申請前に明確に分けることが必要です。

3.賃上げ・付加価値要件がすべての枠で必須に

今回の制度では、賃上げと付加価値額の向上が、すべての枠で必須要件になりました。

付加価値額
年平均4%以上
営業利益・人件費・減価償却費の合計
給与支給総額
年平均3.5%以上
実現可能な賃上げ計画が必要

付加価値額とは、営業利益、人件費、減価償却費を合計したものです。この付加価値額を、事業計画期間中に年平均4%以上向上させる計画が求められます。

また、給与支給総額を年平均3.5%以上増加させる賃上げ計画も必要です。

目標未達には返還リスクがあります
計画した賃上げや付加価値額の目標を達成できなかった場合、補助金の一部返還を求められる可能性があります。採択を得るためだけに、無理な数字を設定しないことが重要です。

実際の財務状況や今後の事業計画から逆算し、達成可能性のある数値で計画を組む必要があります。

3つの申請枠と補助上限――自社に合う枠はどれか

新事業進出・ものづくり・商業・サービス補助金には、目的の異なる3つの申請枠があります。

それぞれ主な目的と補助上限が異なるため、自社の事業計画に合った枠を選ぶ必要があります。

枠の名称 主な目的 補助上限
(特例なし)
補助上限
(特例あり)
革新的新製品・
サービス枠
新製品・新サービスの開発
旧ものづくり補助金
750万円~
2,500万円
賃上げ6%などで
最大3,500万円
新事業進出枠 新市場・新事業への進出 7,000万円 賃上げ特例などで
最大9,000万円
グローバル枠 海外販路開拓を伴う
新事業・新製品
7,000万円 賃上げ特例などで
最大9,000万円

革新的新製品・サービス枠は、100万円以上の投資から対象になるため、小規模な投資でも活用しやすい点が特徴です。

一方、新事業進出枠とグローバル枠では、建物費も補助対象に含まれます。新拠点の整備や、建物を伴う大型投資を検討する場合には、有力な選択肢になります。

設備の種類ではなく、事業の目的で枠を選ぶ
何を購入するかだけで判断するのではなく、その投資によって、どのような新製品・新サービスや新市場を生み出すのかを整理することが重要です。

採択の絶対条件――「新規性二択の原則」を満たしているか

新事業進出枠で採択を得るには、「新市場性」と「高付加価値性」のどちらか一方を、明確に示す必要があります。

シードコンサルティングでは、これを「新規性二択の原則」と呼んでいます。

新規性二択の原則
「新市場性」または「高付加価値性」の、どちらか一方を明確に示せなければ、公募の対象外となります。

新しいことに取り組むというだけでは不十分です。誰に対して、どのような価値を提供するのかを具体的に整理する必要があります。

新市場性――自社にとっても市場にとっても新しい顧客層に踏み出す

新市場性とは、既存事業とは異なる市場や顧客層へ進出することです。

建設業での例

リフォーム専業の会社が、空き家を再生し、宿泊業や旅館業へ進出するケースです。既存のリフォーム事業とは異なる市場と顧客層へ踏み出すことで、新市場性を示すことができます。

単に新しいサービスを始めるだけではなく、これまでとは異なる顧客を対象としていることが重要です。

既存顧客に別の商品を販売するだけでは、新市場性が十分に認められない場合があります。

高付加価値性――既存市場でも、独自の価値を上乗せする

高付加価値性とは、既存の市場であっても、他社にはない独自の価値を加えることです。

建設業での例

工務店がパン屋事業を始める場合、パン屋という市場自体はすでに存在しています。この場合は、「地元産の素材から起こした天然酵母を使う」など、他社にはない独自の価値を示す必要があります。

市場そのものが新しくなくても、自社ならではの商品設計や製造方法、サービス提供方法などによって、高付加価値性を示すことができます。

重要なのは、単なる違いではなく、その違いが顧客にとってどのような価値になるのかを説明できることです。

単なる業態の横展開では、新規性が認められにくい

建設業が新市場性を示す場合、注意したいのが、既存事業に近い分野への横展開です。

例えば、新築専業の会社がリフォーム事業へ進出するケースでは、顧客層が大きく変わらないと判断される可能性があります。

「新しい事業」だけでは不十分です
既存事業と顧客層がほぼ同じ場合、単なる業態の横展開とみなされ、新市場性が認められにくい傾向があります。

新市場性を狙うのであれば、既存事業と顧客層が明確に異なる事業への進出を検討する必要があります。

一方で、既存市場に近い事業であっても、独自性の高い価値を加えられるのであれば、高付加価値性の方向で整理できる可能性があります。

自社の計画が、どちらに当てはまるかを先に決める
新市場性と高付加価値性を曖昧に混ぜるのではなく、どちらを主軸に申請するのかを明確にすることが、事業計画を組み立てる出発点になります。

建設業だからこそ有利な理由――賃上げ実績とものづくり業種への展開

「賃上げ年3.5%」と聞くと、ハードルが高いと感じる経営者も多いかもしれません。

しかし、建設業には他業種にはない強みがあります。

年度 建設業の1人当たり平均賃金改定率
令和6年度
2024年度
4.5%
前年3.4%から加速
令和7年度
2025年度・見込み
5.9%
全産業中2位の伸び率

建設業の賃金水準は、すでに補助金の要件である3.5%を上回る傾向で推移しています。

つまり、建設業にとって3.5%の賃上げ要件は、業界の流れに沿った現実的な目標であると考えられます。

建設業では、賃上げ要件を計画に組み込みやすい
人材確保や定着のために、すでに賃上げを進めている企業も多く、補助金の要件と業界の実情が重なりやすい点は強みです。

建設業から製造業へ展開する計画も有力

また、建設業から製造業へ展開する計画は、新事業として整理しやすいケースがあります。

例えば、自社独自の部材や家具などを開発し、ブランド化して販売する事業です。

これまで現場で培ってきた施工技術やノウハウを、製品として外部へ提供することで、既存の建設事業とは異なる市場へ展開できる可能性があります。

原稿では、建設業から製造業への展開は所管官庁の視点からも歓迎されやすい傾向がうかがえ、採択事例数でも建設業が業種別で2番目に多いとされています。

採択率の目安

この補助金の採択率は、おおむね3割程度とされています。

省力化投資補助金の採択率が6割前後とされるのに比べると、狭き門です。

採択の分かれ目は、新規性を明確に示せるかどうかです
新市場性または高付加価値性を、具体的な顧客、商品、数字、事業ストーリーによって説明できるかが重要になります。

申請前に知っておくべき3つの実務ポイント

1.補助金は後払いという資金繰りの現実

補助金は、採択された時点ですぐに振り込まれるものではありません。

採択後に設備投資を行い、事業を実施し、実績報告や検査を終えた後に、補助金が振り込まれる後払い方式です。

そのため、設備代金や建物費などは、いったん自社で支払う必要があります。

採択されても、先に資金が必要です
自己資金が不足する場合は、金融機関からのつなぎ融資を検討する必要があります。申請前に、設備投資額と資金調達方法を整理しておきましょう。

補助金の採択可能性だけでなく、採択後に事業を実行できる資金力があるかどうかも、重要な確認事項です。

2.直近16か月ルールと1社カウントの注意点

直近16か月以内に、類似する補助金で採択を受けている場合は、今回の補助金の対象外となる可能性があります。

過去にものづくり補助金や新事業進出補助金などを活用している場合は、採択時期や事業完了時期を確認する必要があります。

また、法人が別であっても、代表者や経営実態などが同じと判断される場合は、みなし同一法人として1社にカウントされることがあります。

グループ会社も個別に申請できるとは限りません
代表者が同じ会社や、実質的に同じ経営体と判断される会社は、1社として扱われる可能性があります。申請前に公募要領を確認しましょう。

複数の法人を経営している場合は、それぞれの会社が独立した事業者として認められるかどうかを含めて、慎重に確認する必要があります。

3.加点項目は早めに着手する

補助金の審査では、事業計画の内容に加えて、一定の取り組みを行っている企業に加点が付く場合があります。

主な加点項目として、次のようなものが挙げられます。

  • 経営革新計画の承認
  • パートナーシップ構築宣言
  • 健康経営優良法人の認定

経営革新計画は都道府県の承認が必要であり、申請から承認までに一定の時間がかかります。

また、健康経営優良法人についても、受付期間が8月から10月頃に限られるなど、いつでも申請できる制度ではありません。

加点対策は、締切直前では間に合わないことがあります
補助金の申請を検討し始めた段階で、自社が取得できる加点項目を確認し、早めに準備しておくことが重要です。

いますぐ確認すべき3つのステップ

この補助金への申請を検討している場合は、まず次の3つを確認してください。

1

新市場性と高付加価値性のどちらに当てはまるか整理する

自社の投資計画が、新しい顧客層へ進出する「新市場性」なのか、既存市場へ独自の価値を加える「高付加価値性」なのかを明確にします。

2

賃上げと付加価値額の目標を財務数値から逆算する

給与支給総額を年平均3.5%以上、付加価値額を年平均4%以上増加させられるか、現在の財務数値をもとに試算します。

3

後払いに備えた資金計画を確認する

設備投資を自己資金で一時的に負担できるのか、つなぎ融資が必要なのかを確認し、採択後も無理なく事業を実行できる資金計画を整えます。

建設業経営者が補助金を活用するために

新事業進出・ものづくり・商業・サービス補助金は、建設業にとって大きな成長投資を実現できる制度です。

一方で、採択率は決して高くなく、枠選びや新規性の示し方を間違えると、採択を得ることは難しくなります。

とくに今回からは、1回の公募で1つの枠しか選べません。

だからこそ、設備を先に決めるのではなく、会社として何を実現したいのか、その事業が新市場性と高付加価値性のどちらに当てはまるのかを整理することが重要です。

補助金の申請は、会社の成長戦略を整理する機会です
採択だけを目的にするのではなく、今後の事業展開、賃上げ、資金調達までを含めた全体設計の中で活用していきましょう。

自社に合う申請方針を整理しませんか?

「自社の計画は新市場性と高付加価値性のどちらに当てはまるのか分からない」
「どの枠を選べばよいか判断できない」
「補助金と資金調達を一緒に考えたい」
という方は、お気軽にご相談ください。

初回60分・オンライン対応可・無料

よくある質問

Q. ものづくり補助金と新事業進出補助金は、今も別々に申請できますか?

A. いいえ。統合後は、同じ補助金の中に設けられた異なる申請枠という扱いになりました。そのため、1回の公募で選べる枠は1つだけで、以前のように両方へ併願することはできません。

Q. 省力化投資補助金と、どちらを申請すべきですか?

A. 生産性向上や省人化が主目的であれば、省力化投資補助金が候補になります。新製品・新サービスの開発や、新市場・新事業への進出が主目的であれば、新事業進出・ものづくり補助金が適しています。両方の要素がある場合は、どちらの目的がより強いのかを整理して判断します。

Q. 建設業でも新市場性を示すことはできますか?

A. 可能です。空き家再生から宿泊業へ進出する事業や、自社独自の部材・家具を製造して販売する事業など、建設業から踏み出せる新市場は複数あります。ただし、既存事業と顧客層がほぼ同じ場合は、新市場性が認められにくいことがあります。

Q. 賃上げ目標を達成できなかった場合はどうなりますか?

A. 目標を達成できなかった場合、未達の内容に応じて補助金の一部返還を求められる可能性があります。採択を得るために無理な数字を設定せず、実際の財務状況から逆算した達成可能な計画を作ることが重要です。

Q. 申請にはどのくらいの準備期間が必要ですか?

A. 申請枠や事業内容によって異なります。革新的新製品・サービス枠では3~4回程度、新事業進出枠ではさらに多くのヒアリングや検討を要する場合があります。加点項目の取得にも時間がかかるため、2026年10月30日の締切から逆算して、早めに着手することをおすすめします。

関連記事

この記事の著者

岡田 聡(おかだ さとし)

株式会社シードコンサルティング 代表取締役

建設・リフォーム業界の中小企業に特化した、財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社を超える建設業経営者を支援し、100件以上の事業承継案件を手がけた実績を持ちます。

YouTube「建設業支援TV~お金のミカタ~」で業界の経営ノウハウを発信中。日本経営士協会 経営士、相続事業承継コンサルティング協会 エグゼクティブコンサルタント。


株式会社シードコンサルティング

※本記事は一般的な情報提供を目的として作成しています。制度内容、申請要件、補助上限、公募スケジュールなどは変更される場合があります。申請にあたっては、必ず最新の公募要領および公式情報をご確認ください。また、本記事は補助金の採択を保証するものではありません。

財務・事業承継・M&Aにお困りならお気軽に無料相談を

お電話でのお問い合わせはこちら

03-6811-2930

平日09:00〜18:00土日祝日除く