建設業の社内承継とは?後継者候補が突然退社した70歳社長の実例と5年間のロードマップ
カテゴリ:建設業経営
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「継がせようとしていた息子が退社した」。事業承継の計画が一夜にして崩れるケースは、決して珍しくありません。
年商10億円・社員30名の建設関連会社で実際に起きたこの事例をもとに、社内承継の現実的なステップと、ホールディングス、つまり持株会社を活用した承継モデルを解説します。
承継は「計画通りにいかない」ことを前提に、複数の選択肢を持ちながら進めることが重要です。
社長年齢
年商規模
選択肢
ロードマップ
社内承継とは
後継者を社外ではなく、社内の幹部社員・従業員から選んで経営を引き継ぐ事業承継の手法です。親族内承継もM&Aも選択できない状況でも、社内に適切な人材がいれば有力な選択肢になります。
事例の概要:計画が崩れた70歳社長の相談
会社のプロフィール
・業種:建設関連
・年商:約10億円
・利益:毎年3,000万円安定
・社員数:30名規模
・社長の年齢:70歳
業績は安定しており、社風も良く、長年の信頼関係で成り立っている会社です。しかし社長が70歳を迎えた頃、「次の経営者は誰か」という問題が現実のものとなってきました。
突然の「事件」
元々、後継者として育ててきた息子への承継を想定していました。幹部社員も「息子が継ぐならサポートする」という意識で働いていました。
ところがある日、その息子が退社。長年積み上げてきた承継計画が、一夜にして白紙に戻りました。
事業承継は、予定通りに進まない
後継者候補がいるから安心、とは限りません。人の気持ち、家庭事情、会社との相性は変わります。だからこそ、承継には「第2案」「第3案」が必要です。
社長の4つの悩み
① 会社を残したい
長年かけて作り上げた職場を、社員たちが安心して働ける場所として続けたい。
② 株、自社株を引き継げるか不安
利益が出ている分、株価は上がっている。それを幹部社員が引き受けられるのか。
③ 自分と家族の老後資金も確保したい
引退後の生活、家族への資産も考えたい。
④ M&Aには良いイメージがない
毎日のように買収提案の手紙が来るが、会社の社風が失われるのでは、と踏み切れていない。
社内承継の3つの選択肢と現実的な判断
後継者が突然いなくなった時、選択肢は実はそれほど多くありません。整理すると以下の3つです。
A. 親族内承継
今回は息子が退社したため、現状では難しい状況。ただし、将来的に戻ってくる可能性はゼロではないため、選択肢から完全に除外はしません。
B. 社内承継、幹部社員への引き継ぎ
長年一緒にやってきた60歳の幹部社員への引き継ぎ。信頼関係は厚いものの、幹部側にとっても想定外のバトンであり、「突然すぎる」プレッシャーもあります。
C. M&Aによる第三者承継
社長はイメージが良くないと感じているものの、良質なM&Aパートナーであれば会社の社風・文化を守りながら引き継ぐことも可能です。選択肢として持っておく価値はあります。
今回の結論
まず社内承継を軸に動きながら、M&Aの選択肢も消さずに並走する。事業承継は計画通りに進まないことを前提に、状況の変化に対応できる柔軟性が必要です。
社内承継を成功させる仕組み:ホールディングス活用モデル
なぜいきなり全部渡してはいけないのか
「幹部社員に継がせる」と決めたとしても、現社長がいきなり株も経営権もすべて渡すのはリスクが高いやり方です。特に今回のような状況では、段階的に権限を移していく仕組みが必要です。
そこで有効なのが、持株会社、つまりホールディングスと事業会社を分けるという手法です。
ホールディングス活用モデル
現社長
↓ 株式保有
持株会社(資産管理会社)── 配当収入・資産管理
↓ 出資
事業会社 ── 幹部社員が社長として経営
↓ 次世代社長候補の育成
ステップ1:当面
株はオーナー、持株会社が保有したまま、事業会社の経営を幹部社員に委ねる。現社長は一線を退きながらも、大きな判断には関与できる状態を維持します。
ステップ2:数年後
幹部社員が事業会社の社長として実績を積む中で、次世代の若手リーダーを育成。将来の社長候補を早めに育てておきます。
ステップ3:5年後・75歳
退職金を受け取り、持株会社からの配当で老後の生活を安定させながら、完全に経営から離れます。
このモデルにより、社長は「会社を残したい」「家族に資産を残したい」「社風を守りたい」という3つの願いを両立させることができます。
ホールディングス運用で必ず設計すべきガバナンスのルール
持株会社と事業会社を分けると、必ずといっていいほど「揉めるポイント」が生まれます。あらかじめルールを明確にしておかないと、事業会社の社長が意思決定できない、スピードが落ちるといった問題が起きます。
① 決裁権限の明確化
事業会社の社長が単独で決められることと、持株会社、オーナーの承認が必要なことを明文化します。
② 株主承認事項の定義
どの規模・種類の経営判断が株主承認を要するかを決めておきます。
③ 配当方針のルール化
事業会社の利益のうち、どの割合を持株会社に配当するかをあらかじめ決めておきます。後から揉める最大の原因になる部分です。
④ 経営の自由度の担保
幹部社員が新社長として思い切った経営判断ができるよう、オーナー側からの過度な口出しを制限するルールを持ちます。
所有と経営を分けるなら、ルール設計が必須
ガバナンス設計なしに所有と経営を分離すると、形だけの承継になり、かえって経営が止まるリスクがあります。
社内承継が失敗するリスクとその対策
リスク1:隠れ負債の存在
承継後に「知らなかった負債」が出てくると、後継者の信頼を失います。借入れ・保証・担保の全体像を棚卸しして、引き継ぎやすい財務状況に整えることが先決です。
リスク2:株式の分散・不明確化
「誰が何パーセント持っているか、実はよく分かっていない」という状態で承継を進めると、後から権利関係で揉めます。株式の保有状況を整理し、できる限りオーナー系に集約・シンプル化しておくことが重要です。
リスク3:後継者が孤立する
幹部社員が社長になった途端に、他の社員が「ついていけない」と離れるケースがあります。新社長を支える体制・マネジメントチームを同時に整備しないと、人材流出につながります。
リスク4:制度だけ作って人間関係が壊れる
承継は法的・財務的な手続きだけでなく、人と人との信頼関係で成立します。社長が「任せた」と言いながら口を出し続けると、後継者は育ちません。任せたら任せきる覚悟が成功の鍵です。
5年間のロードマップ:75歳引退に向けた段階的な準備
今すぐ:第1フェーズ
株・借入れ・保証の棚卸し/自社株評価の確認/持株会社設立の検討
1〜2年目:第2フェーズ
幹部社員への権限移譲開始/次世代リーダーの育成着手/財務の見える化
3〜4年目:第3フェーズ
社長交代の実行/持株会社からの配当設計/退職金の積立確認
5年目:第4フェーズ
退職金受取・引退/ライフプラン確定/持株会社による資産管理へ移行
計画は途中で変わって当然です。M&Aへの切り替えも含めて、常に複数の選択肢を持ちながら進めることが、事業承継を成功させるための現実的なアプローチです。
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よくある質問(FAQ)
Q. 社内承継と親族内承継・M&Aはどう選べばよいですか?
A. 会社の状況・後継者の有無・社長の意向によって最適解は異なります。社内に信頼できる幹部がいる場合は社内承継が現実的ですが、株の問題・資金調達・ガバナンス設計など多くの課題を同時に解決する必要があります。
Q. 持株会社、ホールディングスを作るメリットは何ですか?
A. オーナーが株を手放さずに経営を幹部に任せられること、配当による老後の収入源を確保できること、社長の個人資産と会社資産を切り分けられることが主なメリットです。一方で、ガバナンスのルール設計が不十分だと経営が混乱するリスクもあります。
Q. 幹部社員が後継者を断った場合はどうなりますか?
A. M&Aという選択肢に切り替えることになります。良質なM&Aパートナーであれば、会社の社風・社員の雇用を守りながら引き継ぐことも可能です。「M&A=会社が消える」ではなく、「良いパートナーに任せて会社を残す方法」として検討に値します。
Q. 承継準備として最初に何をすればよいですか?
A. まず「株の保有状況・借入れ・保証・担保」の棚卸しです。これが分からないまま承継を進めると、後継者に余計なリスクを背負わせることになります。次に自社株の現在の評価額を把握し、引き継ぎにかかる税金のイメージを持つことです。
Q. 5年で社内承継を完了させることは現実的ですか?
A. 十分に現実的ですが、準備なしに5年を迎えることは難しいです。1年目から財務の整備・権限移譲・後継者育成を同時並行で進める必要があります。特に「財務のガラス張り化」と「次世代リーダーの育成」は時間がかかるため、今すぐ着手することが重要です。
この記事の著者
岡田 聡(おかだ さとし)
株式会社シードコンサルティング 代表取締役
建設・リフォーム業界の中小企業に特化した財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援。100件以上の事業承継案件を手がけた実績を持つ。YouTube「建設業支援TV〜お金のミカタ〜」で業界の経営ノウハウを発信中。日本経営士協会 経営士、相続事業承継コンサルティング協会 エグゼクティブコンサルタント。
https://seed-consulting.jp/
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