日経平均6万円の裏側で何が起きているのか|建設業経営者のための「資産防衛」の考え方

カテゴリ:経営者の資産防衛

日経平均が6万円を超え、S&P500も最高値を更新し続けています。しかし、「円」で見れば増えているはずの資産が、「ゴールド」で見ると大きく目減りしている──世界最大級のヘッジファンド、ブリッジウォーターの創業者レイ・ダリオ氏が2026年1月に公表したデータが、いま経営者の間で静かに波紋を広げています。

仕事はある、株価も高い。それなのに、なぜ違和感があるのか。本記事では、建設業の経営者が過去最高値の相場で見落としてはならない「通貨価値の毀損」という視点と、いま備えるべき3つの行動を、500社超の建設業を支援してきたシードコンサルティングの視点で整理します。

+65%
2025年 ゴールドの
ドル建てリターン
-39%
2025年 米ドルの
ゴールドに対する下落率
-34%
米国10年国債の
ゴールド建てリターン
6万円
日経平均の過去
最高値

出典:レイ・ダリオ氏(ブリッジウォーター創業者)2026年1月公表の年末総括より作成。

この記事で扱う「資産防衛」とは
資産防衛とは、通帳上の数字(名目額)ではなく、その資産で実際に買えるモノやサービスの量(実質価値)を維持・増加させるための経営者の備えを指します。

株高や預金の増加だけを見ると資産は増えているように見えても、通貨そのものの価値が下落していれば、実質的には目減りしていることがあります。いま起きているのは、まさにその構造的な現象です。

1. 日経平均6万円の裏で、何が起きているのか

日経平均が一時6万円を超え、過去最高値を更新しました。S&P500も最高値更新が続き、数字だけを見れば未曾有の株高です。

しかし、外部環境に目を向けると、ホルムズ海峡の緊張、台湾海峡の不安定さ、地政学リスクの同時多発──これまでになく不安定な状況です。不安定な世界で株だけが上がり続ける。この違和感の正体こそ、経営者が今すぐ理解しておくべき論点です。

身近なところで進む「静かな目減り」
1年前に1,000円で買えたものが、今は1,200円出さないと買えません。スーパーのお米、建設資材、ランチ価格。じわじわとした値上がりは、現場の多くの経営者が実感されているはずです。

つまり、通帳の数字が同じでも、1万円札で買えるモノの量は減っています。これが「実質価値の毀損」です。株高で資産が増えたように見えても、その裏で通貨そのものの実力が落ちていれば、勝ちきれていない可能性があるのです。

2. 「物差し」を変えると、答えはまったく変わる

ここで、経営者に持っていただきたい視点があります。「自分の資産は本当に増えているか」を判断するとき、測る物差しを1つに限定してはいけません。

レイ・ダリオ氏が示した衝撃のデータ

米ドル建て:
2025年のリターン:+9% / 評価:プラス(利益)
ゴールド建て:
2025年のリターン:-34% / 評価:マイナス(大幅損失)

同じ資産、同じ期間です。ドルで見れば9%の利益、ゴールドで見れば34%の損失。物差しを変えただけで、プラスとマイナスが逆転します。

これは国債だけの話ではありません。2025年、米ドルはゴールドに対して39%下落しました。裏を返せば、ゴールドはドル建てで65%上昇した──それだけドルの実力が落ちたということです。

なぜゴールドで測ると景色が変わるのか
ゴールドは、どの国の政府も刷ることができません。通貨そのものの価値が下がれば、相対的にゴールドの価格は上がって見えます。逆に言えば、ゴールド建ての数字が下がっている資産は、「通貨の価値下落以上の実質リターンを出せていない」ということです。

株高は、経済が強くなった結果だけでなく、通貨が弱くなった結果としても起こり得ます。この視点を持たないまま通帳の数字だけを見ていると、知らぬ間に実質資産が削られていきます。

3. この現象は、建設業経営者にどう関係するのか

「マクロ経済の話は、うちのような建設会社には関係ない」と思われるかもしれません。しかし、私たちシードコンサルティングが500社超の建設業経営者を支援してきた経験から申し上げると、この視点の有無は経営判断に直接影響します。

① 建設資材の値上がりは「通貨価値の毀損」の最前線
鉄骨、コンクリート、木材、ナフサ由来の建材──資材価格の上昇は、供給要因だけでなく、通貨価値そのものの下落という構造的要因も背景にあります。「一時的な値上がりだから、そのうち戻る」と期待していると、実質利益が削られ続けます。

② 現預金偏重の資産構成は、実質目減りのリスクを抱える
建設業の経営者は、不測の事態に備えて現預金を厚く保有する傾向があります。これは資金繰りの安全弁として重要です。しかし、同時に、その現預金が通貨価値の下落によって静かに目減りしているという事実も直視する必要があります。

③ 事業承継・株価評価のタイミング判断にも影響
自社株の評価は、名目価額ベースで行われます。インフレ局面では資産価値や利益が名目で膨らみ、株価評価が予想以上に高くなるケースがあります。事業承継を検討されている経営者にとって、このマクロ環境は承継タイミングの設計に直結します。

4. 予測ではなく「準備」──経営者が今すぐ着手すべき3つのこと

「では、このバブルはいつ弾けるのか」「まだ伸びるのか」──経営者から最も多くいただくご質問ですが、正直に申し上げて、それを言い当てることは誰にもできません。数年続くかもしれないし、明日潮目が変わるかもしれない。

私たちが建設業の経営者にお伝えしている原則

今は予測の時期ではなく、準備の時期である

・過去最高値の水面下で、実質的な資産価値は毀損している

・外部環境はこれまでになく不安定

・しかし株価は最高値を更新し続けている

この3つが同時に起きている局面では、予測ではなく、どのシナリオでも耐えられる準備が経営者に求められます。

準備①:自社の資産構成を「複数の物差し」で見直す
まずは、自社の資産(現預金、有価証券、不動産、自社株など)が、仮に円の実力が今後さらに落ちたときにどう変動するのかをシミュレーションします。具体的には、現預金比率、借入金の金利固定/変動、固定資産の含み益、自社株の評価額の4項目を、「もし物価がさらに20%上昇したら」というシナリオで棚卸しすることから始めます。

準備②:価格転嫁の仕組みを「契約書レベル」で埋め込む
値上げは「お願い」ではなく「仕組み」で行うべきです。契約書に価格変動条項を1行入れるだけで、交渉の土台が変わります。すでに条項を入れている会社でも、文言が形骸化していないかを見直す価値があります。

契約書に入れるべき1行(参考例)
「燃料・運搬費・主要資材価格が急変した場合、請負代金および工期について、協議の上、変更となる可能性があります。」

準備③:事業承継・出口戦略のタイミングを「今」検討する
株価が高く、自社利益も名目上は好調なこのタイミングは、事業承継を設計する上でむしろチャンスでもあり、リスクでもあります。M&Aによる第三者承継を検討されている場合、買い手市場が活発な今のほうが有利な条件を引き出しやすい一方、自社株評価が高止まりすると親族内承継の税務負担が重くなります。

シードコンサルティングの支援
シードコンサルティングでは「事業承継ドック」という建設業特化の承継診断を通じて、現状の株価評価、承継方式別のシミュレーション、数年単位のロードマップを整理する支援を行っています。いずれにせよ、5〜10年前からの準備が理想という事実は変わりません。

5. 次回:60年ぶりに動いた事業承継・M&A税制

本記事で述べた「準備」の一環として、経営者が押さえておくべきもうひとつの大きな論点があります。それは、2026年度税制改正で60年ぶりに動いた事業承継・M&A関連の税制です。

非上場株式の相続評価ルールの見直し、事業承継税制特例措置の期限、M&A時の税務取扱いの変更──これらは中小企業経営者の資産設計に直接影響する重要な変化です。次回の記事では、このテーマを掘り下げて解説します。

まずは「資金設計図」診断から始めませんか?

「うちの場合、何から準備すればいいのか分からない」「株価高騰のうちに承継を検討したい」という経営者の方へ。シードコンサルティングでは、御社の財務データに基づいた「Seed式資金設計図」診断を通じて、現状の課題と、いま着手すべき打ち手を一緒に整理します。

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よくある質問(FAQ)

Q. 建設業の経営者が、今すぐ着手すべき資産防衛の第一歩は何ですか?

A. まずは自社の資産構成を「円建て以外の物差し」でも把握することです。現預金比率、借入金の金利条件、固定資産の含み益、自社株評価額の4項目を、インフレが今後も続くシナリオで棚卸ししてみてください。シードコンサルティングでは「Seed式資金設計図」を通じて、この棚卸しを体系的にサポートしています。

Q. 株高のうちに自社株の評価を下げる対策は取れますか?

A. 対策は取れますが、事業の実態と整合する範囲で、かつ税務リスクを精査した上で行う必要があります。類似業種比準価額方式と純資産価額方式のどちらが有利か、役員退職金の活用、組織再編の選択肢など、複数の手法を組み合わせた設計が必要です。特に建設業は業種特性が評価に影響するため、建設業に精通した専門家への相談をお勧めします。

Q. インフレ対策として、会社でゴールドや外貨資産を持つべきですか?

A. 「持つべき」と断定はできませんが、選択肢として検討する価値はあります。ただし、本業の資金繰りや銀行格付けへの影響、会計・税務上の取扱いを考慮する必要があります。個人資産と法人資産では検討軸が異なりますので、投資判断の前に、まず本業の価格転嫁力と資金繰り耐性を強化することを優先されるのが実務的です。

Q. この局面でうまく立ち回っている建設会社の共通点はありますか?

A. 3つの共通点があります。①資材価格の変動を月次で把握し、受注段階で転嫁条項を必ず入れている。②借入と預金のバランスをマクロ環境に応じて柔軟に調整している。③事業承継・出口戦略を5年前から設計している。この3つを備えている会社は、外部環境がどう動いても大きく崩れません。

この記事の著者

岡田 聡(おかだ さとし)
株式会社シードコンサルティング 代表取締役
建設・リフォーム業界の中小企業に特化した財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援。100件以上の事業承継案件を手がけた実績を持つ。YouTube「建設業支援TV〜お金のミカタ〜」で業界の経営ノウハウを発信中。日本経営士協会 経営士、(一社)相続事業承継コンサルティング協会 理事・エグゼクティブコンサルタント。
https://seed-consulting.jp/

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