建設業の自社株は上がる?下がる?非上場株式の新しい評価方法「残余利益方式」を解説
公開日:2026/10/15
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非上場株式(自社株)の相続税評価が、約60年ぶりに大きく変わろうとしています。
国税庁の有識者会議では、会社の規模区分を廃止し、「帳簿上の純資産+数年分(5年程度)の超過収益」で株価を決める「残余利益方式」への見直しが議論されています。
自社株が上がるか下がるかの分かれ目は、「純資産に対して、期待される水準以上の利益を出しているかどうか」です。安定して利益を出している建設会社ほど、評価額が上がる側に入る可能性があります。
残余利益方式とは
会社の帳簿上の純資産に、通常期待される利益を上回って稼いでいる分(超過収益)の数年分を足し引きして株価を求める評価方法です。
ご注意ください
本記事は2026年10月時点で公開されている有識者会議資料などをもとにしています。新しい評価方法はまだ正式決定しておらず、計算方法や適用時期は今後変わる可能性があります。
なぜ今、自社株の評価方法が見直されるのか?
約60年続いた評価ルールの見直し
非上場株式の評価ルールの骨格は、昭和39年(1964年)に定められた財産評価基本通達から大きく変わっていません。
国税庁は2026年4月から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開き、評価方法そのものを見直す議論を進めています。
きっかけは会計検査院の指摘
見直しのきっかけの1つが、会計検査院の指摘です。2024年11月に公表された検査報告では、検査対象となった申告で、申告された評価額の合計(約169億円)と純資産価額方式で計算した評価額の合計(約397億円)の間に、約228億円の開きがあったことが示されました。
さらに、類似業種比準価額は純資産価額の中央値の27.2%にとどまり、規模の大きい会社ほど純資産に比べて評価額が低くなる傾向も指摘されています。
「大きい会社ほど対策が効く」不公平感
要するに、規模の大きい会社ほど自社株を低く評価する対策が取りやすく、小さい会社ほど対策が取りにくい——という不公平が生まれていたのです。
国としては、「税金を取り漏らしているのではないか」という問題意識があると考えられます。
新しい計算方法「残余利益方式」とは?
基本の計算式は驚くほどシンプル
これまでの自社株評価は、会社を大・中・小に区分し、類似業種比準方式と純資産価額方式を組み合わせて……と、税理士でも見解が分かれるほど複雑でした。
新しい方式として議論されている計算の骨格は、とてもシンプルです。
株式の評価額 = 簿価純資産 ± 数年分の超過収益
| 用語 | 意味 | どこを見ればわかるか |
|---|---|---|
| 簿価純資産 | 帳簿上の会社の「正味の値打ち」 | 決算書の貸借対照表(BS)右下の「純資産の部合計」 |
| 超過収益 | 通常期待される水準を超えて稼いだ利益 | 当期純利益 −(純資産 × 還元率) |
| 還元率 | 株主が期待する利益水準を計算するための率 | 未定(今後の議論で検討) |
2026年9月の第6回会議資料では、超過収益を加算する期間は「5年程度」とする案が示されています。
数字で見る計算イメージ
動画で紹介した例で計算してみましょう。還元率は未定のため、説明用に6%と仮定します。
簿価純資産:5億円
当期純利益:5,000万円
期待される利益:5億円 × 6% = 3,000万円
超過収益:5,000万円 − 3,000万円 = 2,000万円
5年分の超過収益:2,000万円 × 5年 = 1億円
評価額:5億円 + 1億円 = 6億円
純資産に「利益の何年分か」を上乗せする考え方は、M&Aで会社の値段をつけるときの「年買法」によく似ています。相続税評価が、実際の売買価格の考え方に近づいていくと見ることもできます。
現行制度から何が変わるのか
有識者会議で示されている主な変更案は次のとおりです。
- 会社規模区分(大・中・小)の廃止:すべての会社を共通の方式で評価する方向
- 類似業種比準方式の廃止:現行方式の理論的根拠などが問題視され、見直しが議論されている
- 純資産は帳簿価額のまま:土地などを相続税評価額に洗い替える必要はない方向
- 一時的な損益は除外:オペレーティングリースの損失や役員退職金など、毎期続かない損益は除いて「正常な利益」で評価する方向
- 法人税申告書ベースで計算:会計基準の違いによる差をなくす狙い
※いずれも2026年10月時点の検討内容であり、制度として確定したものではありません。
自社株が上がる会社・下がる会社の分かれ目は?
分かれ目はたった1つ
上がるか下がるかの分かれ目は、
「当期純利益」が「純資産 × 還元率」を上回っているかどうか
言い換えれば、純資産に対する利益率(ROE)が還元率より高いかどうかです。
- 上回っている → 超過収益がプラス → 簿価純資産より高い評価
- 下回っている・赤字 → 超過収益がマイナス → 簿価純資産より低い評価
有識者会議の資料でも、「期待収益率以上の収益率の会社は簿価純資産価額以上、期待収益率以下又は赤字の会社は簿価純資産価額以下」と整理されています。
※ここでいう「高い・低い」は、提案されている計算方式による評価額と簿価純資産との比較です。現行制度での自社株評価額より必ず上がる・下がるという意味ではありません。
「上がる側」に入りやすい会社
還元率がいくらになるかはまだ決まっていませんが、少なくとも毎期それなりの当期純利益を安定して出している会社は、上がる側に入る可能性が高いと私たちは見ています。
建設業は、公共工事を中心に堅実に利益を積み上げている会社が少なくありません。これまで類似業種比準方式で低く抑えられていた会社ほど、評価額の上昇幅が大きくなる可能性があります。
「下がる側」に入りやすい会社
逆に、売上は3億円あるけれど利益は100万円、あるいはほぼトントン——という会社は、超過収益がマイナスになり、簿価純資産より評価額が低くなる側に入りやすくなります。
従来の自社株対策はどうなる?
効果が薄れる可能性がある3つの方法
これまでよく使われてきた自社株対策には、次のようなものがあります。
1.会社区分をずらす
従業員数や売上を調整して、有利な会社区分に入れる方法です。
2.一時的に利益を圧縮する
オペレーティングリースや役員退職金などを活用して、評価時点の利益を下げる方法です。
3.会社を分ける・持株会社をつくる
組織再編を活用して、株式の評価額を下げる方法です。
新しい方式では、会社規模による区分そのものがなくなり、一時的な損益は除外される方向です。
これらの方法がすべて使えなくなるわけではありません。しかし、これまでと同じ効果は期待しにくくなると私たちは考えています。
「現行ルールのうちに」検討すべきこともある
新しいルールが適用されてからでは、打てる手が限られることもあります。
- 先代社長が持っている株を、いまのうちに後継者へ集約しておく
- 親族などに分散している株を、いまのうちに整理しておく
こうした対策は、評価額が上がる前に動くかどうかで、相続税や贈与税が数千万円単位で変わる可能性もあります。
ただし、株の移転を急ぐことが必ずしも正解とは限りません。
現行制度での評価額、後継者の状況、贈与税・相続税の負担などによって、適切なタイミングは異なります。必ず税理士などの専門家と一緒に検討してください。
具体例で比較:利益体質によって自社株評価はどう変わる?
純資産が同じ3億円の建設会社が2社あるとします。
※以下は、残余利益方式の考え方を説明するための仮定の例です。還元率6%、超過収益の加減算期間5年としています。実際の会社の評価額や正式な制度の計算方法を示すものではありません。
| 項目 | A社 安定して黒字 |
B社 利益がほぼトントン |
|---|---|---|
| 簿価純資産 | 3億円 | 3億円 |
| 平均の当期純利益 | 3,000万円 | 300万円 |
| 期待される利益 (3億円×6%) |
1,800万円 | 1,800万円 |
| 超過収益 | +1,200万円 | −1,500万円 |
| 5年分の超過収益 | +6,000万円 | −7,500万円 |
| 評価額(試算) | 3億6,000万円 | 2億2,500万円 |
同じ純資産でも、利益の出方によって、試算した評価額は1億円以上違ってきます。
A社のように堅実に利益を出している会社ほど、新しい方式で自社株の評価が高くなる可能性があり、承継の準備を早めに考える価値があります。
シードコンサルティングでは、500社超の建設業を支援し、100件以上の事業承継案件に関わってきました。
実際の相談でも、「うちは上がる側なのか、下がる側なのか」を知るだけで、承継の段取りや株の集約の優先順位がはっきりするケースが多くあります。
いま確認しておきたい3つのステップ
ステップ1:決算書で「純資産合計」を確認する
貸借対照表(BS)の右下にある「純資産の部合計」を見てください。これが新しい計算の出発点になります。
ステップ2:直近3〜5期の当期純利益を並べる
新しい方式では、1期だけでなく過去数期分の利益が見られる方向です。
たとえば「3期前1,000万円、2期前500万円、直近−100万円」のようにデコボコしている場合は、平均でどのくらいか、プラスの期が多いのかマイナスの期が多いのかを確認しましょう。
ステップ3:純資産に対する利益率を出し、専門家に相談する
平均の当期純利益を純資産で割ると、ざっくりとした利益率がわかります。
純資産に対する利益率 = 平均の当期純利益 ÷ 純資産
これが仮に5〜6%を大きく超えるようであれば、評価額が高くなる側に入る可能性があります。ただし、正式な還元率はまだ決まっていないため、あくまで目安です。
現行ルールでの評価額と比べ、いま打つべき対策があるかを専門家と確認しましょう。
まとめ:自社株は「自分で把握できる」時代へ
- 非上場株式の評価は、約60年ぶりに「残余利益方式」へ見直す方向で議論が進んでいる
- 検討されている計算式は「簿価純資産 ± 数年分(5年程度)の超過収益」
- 簿価純資産より高い評価になるかどうかは、利益が「純資産 × 還元率」を上回るかどうかが分かれ目
- 会社区分の調整や一時的な利益圧縮など、従来の対策は効果が薄れる可能性がある
- 還元率や適用時期など、重要な点はまだ正式決定していない
新しい方式は計算がシンプルになるぶん、社長自身が「うちの株はだいたいこれくらい」と把握しやすくなる可能性があります。
だからこそ、正式決定を待つのではなく、いまのうちに自社の現在地を確かめておくことが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 非上場株式の評価方法はいつから変わるのですか?
A. 2026年10月時点では、正式な適用時期は決まっていません。有識者会議での議論を経て評価通達が改正される見込みで、2028年分からの適用を見込む解説もありますが、確定情報ではありません。シードコンサルティングでも最新の動向を追いながら、お客様に情報をお伝えしています。
Q2. 残余利益方式で自社株が上がるのはどんな会社ですか?
A. 純資産に対して、期待される水準(還元率)以上の利益を出している会社です。毎期安定して当期純利益を出している会社は、簿価純資産を上回る評価になる可能性があります。逆に利益が少ない会社や赤字の会社は、簿価純資産を下回る評価になる方向です。
Q3. 還元率は何%になるのですか?
A. まだ決まっていません。有識者会議では、上場株式の期待収益率などを参考に決める方向で議論されており、今後の論点とされています。記事内の6%は説明用の仮の数字です。還元率が決まると、自社がどの程度の評価になるか、より具体的に試算できるようになります。
Q4. オペレーティングリースなどの自社株対策は使えなくなりますか?
A. 新しい方式では、一時的な損益を除外して「正常な利益」で評価する方向が示されているため、利益を一時的に圧縮する対策は、これまでのような効果が期待しにくくなる可能性があります。具体的な対策の有効性は会社ごとに異なるため、税理士などの専門家にご確認ください。
Q5. 今のうちにやっておくべきことはありますか?
A. まずは決算書の純資産合計と直近数期の当期純利益を確認し、自社が上がる側か下がる側かの目安を把握することです。上がる側の可能性がある会社は、先代が持つ株や分散した株の集約など、現行ルールのうちに検討すべき対策があるかもしれません。私たちも、自社株の現状把握からご相談をお受けしています。
この記事の著者
岡田 聡(おかだ さとし)
株式会社シードコンサルティング 代表取締役
建設・リフォーム業界の中小企業に特化した財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援。100件以上の事業承継案件を手がけた実績を持つ。YouTube「建設業支援TV〜お金のミカタ〜」で業界の経営ノウハウを発信中。日本経営士協会 経営士、相続事業承継コンサルティング協会 エグゼクティブコンサルタント。株式会社シードコンサルティングは認定経営革新等支援機関の認定を受けています。
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参考資料
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第6回)」資料
会計検査院「相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について」
※本記事は2026年10月時点の公表資料に基づく一般的な解説です。残余利益方式の採用、具体的な計算方法、還元率、適用開始時期は正式決定していません。記載した試算は説明用の仮定であり、実際の相続税・贈与税の評価額を保証するものではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご相談ください。
