建設業で息子が「継がない」と言ったら?社長が最初にやるべき出口戦略の整理を解説
カテゴリ:建設業経営
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創業60年を超える建設会社で、30代の後継者候補が「継がない」という決断をしました。
このとき社長が最初にやるべきは、会社を「売るか・売らないか」を決めることではありません。まず「何を守りたいのか」「どんな条件なら譲れるのか」を整理することです。
「継がない」と言われた瞬間、多くの社長は出口の話に一気に飛んでしまいます。しかし、売却ありきでM&Aを検討し始めると、ほぼ確実に後悔します。本記事では、実際に寄せられた相談をもとに、後継者が継がないと決まったときに社長が最初にやるべき整理の手順を解説します。
創業歴
世代
理由
リスク
建設業における出口戦略とは
後継者の有無にかかわらず、雇用・取引先・技術といった「守りたいもの」を次の世代へ引き継ぐために、廃業・親族承継・M&Aなどの選択肢を整理し、最適な形を設計する経営判断のことです。M&Aはその選択肢の一つであり、目的ではなく手段です。
なぜ「売却ありき」でM&Aを始めると後悔するのか
結論から言えば、M&Aは出口戦略を実現するための「手段」であって、「目的」ではないからです。
「後継者がいない。だから会社を売る」と短絡してしまうと、肝心の「何のために、何を残すために手放すのか」が抜け落ちます。
その状態で交渉に入ると、条件面で迷いが生じたり、いざ話がまとまる段階で家族や役員から「本当にこれでいいのか」という声が上がったりして、交渉が止まってしまいます。
検討の正しい入り口は「感情の整理」から
先代から受け継いできた家業を手放すという決断には、必ず感情が伴います。「ここまで続けてきたものを、自分の代で外部に渡していいのか」という葛藤です。
私たちが大切にしているのは、いきなり数字や手法の話に入らず、まず社長やご家族が「なぜこの決断をするのか」を自分の言葉で言語化することです。ここを飛ばすと、後の交渉でブレが生じます。
最初に決めるのは、売却条件ではありません
まず整理すべきは「何を守りたいのか」です。雇用なのか、社名なのか、取引先なのか、技術なのか。ここが曖昧なままM&Aに入ると、最後に迷います。
次に決めるのは「現実条件」という交渉の軸
感情を整理したら、次に「現実条件」を決めます。雇用は守れるのか、取引先との関係は続くのか、借入や個人保証はどう整理されるのか。
この交渉の軸が固まって初めて、M&Aを含む具体的な選択肢の比較ができるようになります。
後継者が「継がない」と決めた建設会社の実例
実際の相談をもとに、流れを見ていきましょう。なお、個別の事情が特定されないよう、内容は一部変更しています。
会社の概要と相談の背景
ご相談いただいたのは、創業60〜70年、先代のご両親が立ち上げた建築関連の会社です。現在は2代目の社長、60代が経営しており、ご相談に来られたのは30代の息子さんでした。
社長が65歳前後にさしかかり「そろそろ代替わりか」と考えるなかで、息子さんが「継がない」という選択をされました。
注目すべきは、この息子さんが感情だけで結論を出したのではなく、業界の状況や会社の現状を正しく把握したうえで判断されていた点です。業界や自社の課題を冷静に整理されていました。
息子さんがM&Aを選んだ3つの理由
1. 承継不在という「引退の現実」
自分が継がないとなれば、従業員や取引先に大きな影響が出ます。とはいえ「継がないから廃業する」というわけにもいきません。今まで続いてきたものをいい形で次につなぐと考えたとき、第三者へのM&Aが有力ではないか、という結論に至りました。
2. 会社の強みを「次の器」で活かす
長年培ってきた技術・ノウハウ・顧客との関係という強みはある。しかし、単独でこの先の事業を成長させていくのは難しい。だからこそ、強みを活かせる良いパートナーと一緒になれば、会社はまだ存続も成長もできる余地がある、という前向きな発想です。
3. 家族の安心
出口は家族の問題でもあります。借入や個人保証の整理に加え、歴史のある会社では株式が親族に分散していたり、ご高齢のご家族が株式や土地を保有していたりと、相続の論点が絡みます。このケースでは、相談に来られる前に家族会議を開き、ご親族も含めてM&Aがいいという方向で合意形成ができていました。
家族の合意は、後戻りを防ぐ重要ポイント
後から「やはり納得できない」という事態を防ぐうえで、家族・親族の合意形成は極めて重要です。出口戦略は、会社の話であると同時に家族の話でもあります。
出口戦略で交渉が止まる3つのリスク
M&Aは「相手が見つかれば終わり」ではありません。実際には、交渉が最終段階まで進んでから止まってしまうケースも少なくありません。その原因の多くは、事前に整理しておけば防げるものです。
リスク1:家族・親族の合意不足
社長本人は納得していても、株主である親族や家族が「聞いていない」「そんな話とは思わなかった」と反対し、交渉が止まるケースがあります。株式の保有状況や相続も含めた整理が欠かせません。
リスク2:守りたいものが決まっていない
「高く売れればいい」という考えだけでは、相手選びを誤ります。社員の雇用、社名、取引先との関係、地域への責任など、譲れない条件を最初に整理しておくことが重要です。
リスク3:時間がなくなる
社長の体調悪化や業績悪化が始まってからでは、選択肢は一気に狭まります。時間的な余裕こそが、最も大きな経営資源です。
M&Aは「急ぐもの」ではなく「備えるもの」
良い会社ほど、「まだ大丈夫」という時期から準備を始めています。結果として、相手も条件も選べる状態で事業承継を進めることができます。
社長が最初に整理すべき3つのこと
① 守りたいものを書き出す
社員・会社名・技術・地域・取引先など、「これだけは残したい」というものを明確にします。
② 家族と方向性を共有する
家族・親族と早い段階で話し合い、「会社をどう残したいか」を共有しておくことで、後のトラブルを防げます。
③ 建設業に詳しい専門家へ相談する
一般的なM&Aではなく、建設業の事情を理解した専門家と一緒に出口戦略を設計することが、会社を良い形で次世代へつなぐ近道になります。
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よくある質問(FAQ)
Q. 後継者がいない場合、すぐM&Aを考えるべきですか?
A. まずは「何を守りたいか」を整理することが先です。M&Aは手段であり、目的ではありません。
Q. 家族に反対されることはありますか?
A. 株式や相続が関係するため珍しくありません。だからこそ、初期段階から家族・親族との対話が重要です。
Q. M&Aは会社を手放すことですか?
A. 会社をなくすことではありません。社員や技術、取引先との関係を次世代へつなぐ方法の一つです。
この記事の著者
岡田 聡(おかだ さとし)
株式会社シードコンサルティング 代表取締役
建設業専門の財務・事業承継・M&Aコンサルタント。500社超の建設業支援、100件超の事業承継支援実績を持つ。「建設業支援TV〜お金のミカタ〜」でも情報発信中。
