建設業の社長が「辞めるに辞められない」理由とは?年商8億の工務店事例で財務の専門家が解説

公開日:2026/10/25

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年商8億円・後継者候補もいる工務店の社長が「このままでは辞めるに辞められない」と悩む原因は、売上ではなく「お金が残らない体質」にあります。

ある62歳の社長の会社では、売上が7億円から8億円に伸びた一方、営業利益率は約1%にとどまり、現金は1年で約7,000万円減り、借入金は約1.8億円まで増えていました。

過去の決算書は変えられませんが、5年後の決算書を先に描き、利益と純資産の目標を決めれば、会社の未来は変えられます。

「辞めるに辞められない状態」とは
売上は伸びているのに利益と現金が会社に残らず、借入金の増加と純資産の不足によって、社長が後継者への承継も退職金の受け取りもできなくなっている経営状態のことです。

売上が増えているのに建設業でお金が残らないのはなぜ?

結論から言うと、「穴の開いたバケツ」に水を注いでいる状態だからです。売上という水がどんどん入ってきても、利益率が低く、借入返済の負担が重ければ、会社にお金は溜まりません。

事例:年商8億円・62歳社長の工務店の決算書

今回ご紹介するのは、リフォームを中心に新築も手がける工務店です。社長は62歳、後継者候補もいます。私たちが決算書をもとに財務レポートを作成したところ、次のような状況が見えてきました。

項目 内容
売上高 約7億円 → 約8億円(前期比増収)
粗利率 約24%(確認中)
営業利益 約800万円(営業利益率 約1%)
現預金 前期比 約7,000万円の減少
借入金 前期比 約2,000万円増加、残高 約1.8億円
純資産(自己資本比率) ほぼ0%

社長ご自身からは「原価が上がって利益が残らない。こんな状態がもう3〜4年続いている」「承継も考えないといけないが、あと10年は頑張らないと難しい」という声が出ていました。

売上だけを見れば順調な会社ですが、中身を見ると深刻な状態だったのです。

原価上昇に価格転嫁が追いついていない

資材価格の上昇にあわせて売上単価も上げてはいるものの、利益が残るほどの価格転嫁はできていません。その結果、売上は増えても最終利益は毎期ほぼトントン。これが「バケツの穴」の一つ目です。

売上が増えるほど資金繰りは苦しくなる

建設業は、材料費や外注費を先に支払い、工事完了後に代金を回収するのが一般的です。つまり売上が増えると、先に出ていくお金も増えるため、利益が薄い会社ほど資金繰りが厳しくなります。

「売上が増えたのに現金が減った」という現象は、こうした建設業特有のお金の流れから起きやすいのです。

借入金が年々増えていく建設会社のキャッシュフローの仕組みとは?

この会社の現金が減り、借入金が増えていた最大の理由は、稼いで残るお金より、銀行に返すお金のほうが大きかったことです。

返済原資1,200万円に対して返済額は年3,300万円

この会社のキャッシュフローを整理すると、次のようになります。

1年間で残るお金(税引後利益+減価償却費):約1,200万円

1年間の借入金返済額:約3,300万円

差額:約2,100万円の不足

不足する2,100万円は、また新たな借入れで埋めることになります。利益が増えない限り、借入金は減るどころか年々積み上がっていきます。

今のペースでは完済までに約15年

借入金1.8億円を、年1,200万円の返済原資で返していくと、完済までに約15年かかる計算です。62歳の社長にとっては77歳。「社長、これで引退できますか?」というのが、私たちが最初に共有した現実でした。

※約15年は、借入金残高を年間返済原資で単純に割った目安です。利息、追加借入れ、今後の利益や資金繰りの変化は考慮していません。

一見順調に見える会社でも、このように「売上は伸びているのにキャッシュが減っていく」現象は珍しくありません。シードコンサルティングに寄せられるご相談でも、非常によく見られるパターンです。

社長が辞めるに辞められない3つの理由

長年頑張って会社を育ててきた社長が、後継者がいるにもかかわらず辞められない。その理由は大きく3つに整理できます。

理由1:お金が残らない体質になっている

営業利益率はトントン前後で、年によってはわずかに赤字になることもあります。その結果、純資産はほぼゼロ、自己資本比率もほぼ0%。売上規模が大きいにもかかわらず、会社の中に内部留保が蓄積されていない状態です。

理由2:借入金が増え続け、後継者に渡しにくい

キャッシュの不足を借入れで埋め続けた結果、借入金は約1.8億円まで膨らんでいます。このまま後継者に引き継げば、後継者は重い借入負担を背負ってスタートすることになります。

社長としても「このまま渡していいのか」とためらうのは当然です。

理由3:社長の退職金を払う原資がない

会社の規模や社長の在任年数から考えると、退職金の枠としては1億〜1.4億円程度が想定されるケースでした(実際の支給額は個別の事情や税務上の判断によって異なります)。

しかし純資産がほぼゼロでは、仮に辞めることができても、退職金を出す原資がありません。30年かけて育てた会社の出口で、社長に何も残らない——これでは報われません。

「未来の決算書」を描くと建設会社はどう変わるのか?

ここからは前向きなお話です。私たちが社長にお伝えしたのは、次のメッセージでした。

「過去の決算書は変えられません。でも、未来の決算書は変えられます」

5年後の決算書を社長と一緒に描く

私たちはいつも「現状把握 → あるべき姿 → ギャップを埋める計画」というプロセスで伴走しています。今回の転機になったのは、「5年後の決算書を一度一緒に描いてみませんか」という問いかけでした。

項目 現在 5年後の目標
売上高 約8億円 約8億円(できれば微増)
営業利益 約800万円(約1%) 約4,000万円(約5%)
純資産 ほぼゼロ 約1億円
借入金 完済まで約15年 10年以内に返済できる水準
承継 見通しが立たない 後継者に段階的に任せ、70歳前後で退任・退職金受け取り

「同じ8億円の売上を立てるなら、800万円残るのと4,000万円残るのと、どちらがいいですか」とお聞きすると、社長の答えは明確でした。

「毎期4,000万円残れば、会社に資産も溜まる。そういう会社にしたかったんだ」

工務店の営業利益率5%は「あるべき姿」として普通の水準

社長はこれまで「赤字でなければいい」という感覚で経営されていました。しかし、工務店であれば営業利益率5%程度は、目指すべき水準として決して高すぎる目標ではない、というのが私たちの現場感覚です。

目標を数字で示したことで、社長の認識が「それくらいは取れるもの」へと変わりました。

純資産1億円は「毎期2,000万円」の積み上げで届く

純資産1億円と聞くと遠い目標に感じますが、毎期2,000万円ずつ積み上げれば5年で1億円になります。営業利益で3,000万〜4,000万円を安定して確保できるようになれば、十分に現実的な数字です(実際の積み上がり額は税負担等によって変わります)。

逆に言えば、30年間経営してきて純資産がゼロだったのは、「貯める」と決めていなかったからでもあります。目指すと決めない限り、お金は溜まりません。

売上を増やさずに利益を5倍にするには何から始めるべき?

5年後の目標が決まると、「なぜ今は利益が残らないのか」というバケツの穴の話が、具体的な改善テーマに変わります。

ギャップから具体策を逆算する

売上を大きく増やさずに営業利益を約800万円から約4,000万円へ引き上げるために、検討する主な施策は次のとおりです。

1.粗利率の改善
原価上昇分の価格転嫁、見積もり・受注判断の見直し

2.固定費の見直し
販管費の中身を精査し、利益を圧迫している費用を特定

3.資金計画の再設計
返済スケジュールと利益計画を一体で組み直し、借入金が増え続ける構造を断つ

「どうなりたいか」を決めることが最初のスイッチ

今回の事例で最も大きな変化は、社長の意識でした。最初は「どうしようかな」という空気だった面談が、5年後の会社の姿を描いたことで「ぜひそこに向かってやるよ」という前向きな決意に変わったのです。

すぐには変わらなくても、明確な目標を持ち、治療計画を立て、数字を意識して取り組めば、5年あれば会社は決算書も含めて変われます。事業承継の準備は、この「スイッチが入るかどうか」から始まります。

シードコンサルティングの支援実績から見えること

シードコンサルティングでは、これまで20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援し、100件以上の事業承継案件に携わってきました。

その中で実感しているのは、「承継できない会社」の多くは、後継者不在よりも先に「お金が残らない体質」でつまずいているということです。

今回の工務店のように、売上規模も後継者候補もありながら出口が描けない会社は少なくありません。

だからこそ、早い段階で5年後の決算書を描き、利益・純資産・借入金の目標を数字で持つことが、社長自身の出口と後継者の未来を守る第一歩になります。

実力のある会社が、正当に報われる形で次の世代へ引き継がれる——私たちはそのための伴走を続けています。

今日のポイント

  • 売上を上げるだけでは意味がなく、同時にお金が残る会社にすることが重要
  • 過去の決算書は変えられないが、未来の決算書は変えられる
  • 利益と純資産の目標を決めることで、会社は大きく変わる

よくある質問(FAQ)

Q1. 売上が増えているのに、建設会社の現金が減るのはなぜですか?

A. 主な原因は、利益率の低さと借入返済の負担です。建設業は材料費や外注費を先に支払い、工事完了後に入金されることが多いため、売上が増えるほど先に出ていくお金も増えます。そこに返済額が返済原資(利益+減価償却費)を上回る状態が重なると、現金が減り借入金が増えていきます。シードコンサルティングでは、決算書をもとにこの「お金の流れ」を可視化するところから支援しています。

Q2. 工務店の営業利益率はどのくらいを目指すべきですか?

A. 会社の規模や事業構成によって異なりますが、私たちの現場感覚では、工務店であれば営業利益率5%程度は「あるべき姿」として目指せる水準です。年商8億円なら約4,000万円にあたります。現状が1%前後の場合は、粗利率の改善と固定費の見直しを組み合わせて段階的に引き上げていくのが現実的です。

Q3. 社長の退職金を準備するには、何年くらい前から取り組むべきですか?

A. 一概には言えませんが、退職金の原資となる純資産を積み上げるには一定の期間が必要です。今回の事例では、毎期2,000万円ずつ積み上げて5年で約1億円を目指す計画を立てました。退職金の金額や支給方法は税務上の判断も関わるため、早めに専門家へご相談されることをおすすめします。

Q4. 借入金が多い状態でも、後継者に会社を引き継ぐことはできますか?

A. 引き継ぐこと自体は可能ですが、後継者が重い返済負担を背負うことになり、承継後の経営が苦しくなる可能性があります。承継の数年前から、利益計画と返済計画を一体で見直し、借入金を返済可能な水準に整えておくことが大切です。金融機関との調整を含め、個別の状況に応じた検討が必要です。

Q5. 「未来の決算書」とは具体的に何をするのですか?

A. 5年後など一定期間後の売上・利益・純資産・借入金などの目標値を、社長と一緒に決算書の形で描くことです。現状とのギャップが明確になるため、粗利率改善や固定費見直しなど「今やるべきこと」が具体的に見えてきます。シードコンサルティングでは「Seed式資金設計図」などを活用して、この計画づくりを伴走支援しています。

この記事の著者

岡田 聡(おかだ さとし)

株式会社シードコンサルティング 代表取締役

建設・リフォーム業界の中小企業に特化した財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援。100件以上の事業承継案件を手がけた実績を持つ。YouTube「建設業支援TV〜お金のミカタ〜」で業界の経営ノウハウを発信中。日本経営士協会 経営士、相続事業承継コンサルティング協会 エグゼクティブコンサルタント。株式会社シードコンサルティングは認定経営革新等支援機関の認定を受けています。

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