建設業で先代が株を持ったままの会社は要注意?自社株評価の見直しで贈与税が3倍になる理由

公開日:2026/10/24

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経営は息子に任せたのに、自社株はまだ先代の会長が持っている。そんな建設会社は少なくありません。

非上場株式の評価ルールが約60年ぶりに見直されると、利益が出ている会社では自社株の評価が現行の2.7倍程度に上がり、会長の株を贈与したときの税金が約3,260万円から1億円超に跳ね上がる試算も出ています。

新ルールの適用は2028年1月以降になるとの見通しもありますが、正式には決まっていません。だからこそ、次の決算をどう使うか、今のうちから考えておくことが重要です。

「経営は移ったが株が移っていない状態」とは
社長交代で経営の実権は後継者に渡っているものの、自社株(議決権)の過半を先代経営者や親族が持ち続けている状態のことです。事業承継では、経営の承継と株式の承継を別々に進める必要があり、株式の承継が後回しにされやすい傾向があります。

なぜ「株だけ先代が持っている」会社が多いのか?

経営は回っているから、株の話は後回しになる

私たちがご相談を受ける中でも、次のようなケースはよく見かけます。

  • 社長交代は済んでいて、実務も経営判断も後継者が担っている
  • それでも株は、会長になった先代がまだ過半を持っている
  • 会長を退いた後も、親族が株を持ち続けている

経営が順調に回っていると、「株の名義は、そのうちでいいか」となりがちです。後継者にとっては、目の前の経営をきちんと回すことのほうが優先度が高く感じられるからです。

親子だからこそ「株の話」はしにくい

今回ご紹介する会社でも、社長(55歳)の本音はこうでした。

「親父とは仕事の話はできても、株の話はなんとなくしにくい。会長も元気だし、そのうちでいいかと思っていた」

会長は80代で、株の6割を持っています。経営はうまくいっている。けれど、株だけが動いていない。

こうした「動かない株」は、建設業の家族経営では珍しくありません。

自社株評価の見直しで、何が起きようとしているのか?

約60年ぶりの評価ルールの見直し

非上場株式は、国税庁の「財産評価基本通達」に沿って相続税・贈与税の評価額を計算します。このルールが、約60年ぶりに抜本的に見直される方向で議論が進んでいます。

  • 2026年4月:国税庁が「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開始
  • 2026年8月:第5回会議で見直しの骨子を公表。会社規模ごとの評価方式を廃止し、「簿価純資産+数年分の超過利益」で評価する残余利益方式へ原則一本化する方向
  • 2026年9月:第6回会議で計算方法の詳細(5年程度の利益の扱い、役員退職金などの非経常損失の扱いなど)を提示

今後は2026年12月の税制改正大綱で方向性が示され、2028年1月以降に新ルールが適用されるとの見通しもあります。ただし、国税庁は正式な適用時期をまだ公表していません。

上がる会社と、下がる会社がある

新しい計算方法では、純資産が厚く、利益をしっかり出している会社ほど評価が上がりやすい構造です。一方で、利益があまり出ていない会社や赤字の会社は、簿価純資産以下で評価される可能性があります。

ただし、実際に現行制度より評価が上がるか下がるかは、現在の株価評価との比較が必要です。

見直しの全体像と、利益を出した会社ほど株価が上がる理由については、前回の記事で詳しく解説しています。

【事例】会長の株を贈与すると、税金が3,260万円から1億円超に

ここからは、実際にご相談いただいた会社の事例を、一部デフォルメしてご紹介します。

会社と株主の状況

項目 内容
社長 55歳(後継者・経営は承継済み)
会長 80代(先代・株式の60%を保有)
帳簿上の純資産 約4億円
当期純利益 毎期約4,000万円
配当 なし
決算月 3月

純資産も厚く、利益も安定して出ている、いわゆる優良企業です。

会社全体の評価は約2.7倍に

経営は何も変わっていないのに、計算方法が変わるだけで評価額が大きく変わる可能性があります。

項目 現行ルール 新ルール(試算)
会社全体の株式評価 約1.2億円 約3.3億円
会長保有分(60%) 約7,200万円 約2億円

※見直し後の評価額は、検討中の方式に基づく試算です。実際の評価額を保証するものではありません。

贈与税は約3倍、対策を打っても重い負担

会長の株(60%分)を後継者に一括贈与した場合の贈与税を試算すると、次のようになります。

項目 現行ルール 新ルール(試算)
贈与税(概算) 約3,260万円 約1億80万円

※暦年課税による一括贈与を想定した概算です。受贈者の年齢や贈与者との関係など、適用する税率の前提については確認が必要です。

相続時精算課税制度などを組み合わせれば贈与時の負担を抑えられる場合がありますが、それでも新ルールでは3,400万円程度の贈与税がかかる試算です。

「1億円の贈与税なんて、払えるわけないじゃないですか」

社長の第一声でした。いつか引き継ごうと思っていた株が、制度の変更によって「もう無理だ」と感じる金額になってしまうおそれがあるのです。

このまま何もしないと、どんなリスクがあるのか?

何もしないでいると、時間とともに選べる手が少なくなっていきます。主なリスクは3つです。

リスク1:相続税の負担が大きく上がる

新ルールの適用後に相続が発生し、現行ルールより自社株の評価額が高くなれば、その分だけ相続税の負担が増える可能性があります。

リスク2:会長が判断できなくなる

会長が80代であれば、いつ何があるかは誰にも分かりません。判断能力が低下すると、株の贈与や議決権の行使が難しくなる可能性があります。

会社の重要な意思決定に支障が生じるおそれもあります。

リスク3:株が分散し、後継者が相続税を払えなくなる

相続が発生すると、兄弟姉妹など複数の相続人に株が分かれる可能性があります。集約しようとすれば話し合いが必要になり、争いの火種にもなりかねません。

評価の高い株を後継者に集中させようとすると、今度は後継者が相続税を払えないという事態も起こり得ます。

こうした事態は、いずれも経営を不安定にします。危機をあおりたいわけではありません。ただ、早めに準備しておくことで、選べる方法を増やせるのです。

先代と話し合うとき、何に気をつければいいのか?

先代は「渡したくない」わけではない

この会社では、社長だけでなく会長ともじっくりお話をしました。すると、会長の本音はこうでした。

「別に渡したくないわけじゃない。どこかのタイミングで渡すつもりだった。ただ、きっかけを逃してずるずる来てしまって、気にはなっていたんだ」

先代が気にしているのは、税金より「老後」と「居場所」

会長が気にしていたのは、実は税金ではありませんでした。

  • 老後のお金:退職金や老後資金のこと。生活に困っているわけではなくても、将来の安心は確保しておきたい
  • 自分の居場所:自分が育てた会社の株をすべて手放すことへの寂しさ

だからこそ、渡し方やタイミングをどうするかを考えているうちに、時間が過ぎてしまっていたのです。

国の制度変更は、親子で話す「きっかけ」になる

事業承継で一番難しく、一番最初に越えなければならない山は、先代の気持ちに寄り添うことです。

先代の立場から見ても、何かきっかけがないと動き出しにくいものです。今回の評価ルールの見直しは、そのきっかけになります。

「国の制度が変わるかもしれない。うちの株価も大きく上がる可能性があるから、今のうちに一緒に考えておきたい」

そう伝えることで、話し合いが始まるかもしれません。長年動かなかった株を動かすきっかけとして、今は重要なタイミングなのです。

親子だけでは話しにくい場合は、専門家に同席してもらうことで話し合いがスムーズに進むこともあります。

新ルール適用前に打てる手は?

現行ルールのうちに「退職金→贈与」を検討する

この会社で検討した基本の流れは次のとおりです。現行ルールを前提とした対策であり、すべての会社に適しているわけではありません。

1.今期中に会長へ役員退職金を支給する
退任の実態や税務上の要件を確認したうえで、退職金の支払いによる株価への影響を試算します。

2.株価が下がった決算を締める
3月決算の会社なら、2027年3月期の決算を踏まえて株価を評価する計画です。

3.相続時精算課税制度を使って株を贈与する
制度の適用要件と相続時の精算を確認し、適切な時期に株式移転を行う方法を検討します。

4.事業承継税制(特例措置)の活用も検討する
会社ごとの条件に応じて、納税猶予制度の活用も選択肢に加えます。

この会社では、2027年度中に贈与を実施する方向で検討を進めています。ただし、実行時期は新ルールの適用開始日や税務上の要件によって再検討が必要です。

事業承継税制(特例措置)の期限にも注意

法人版事業承継税制の特例措置について、原稿では、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日、特例措置の適用期限が2027年12月31日とされています。

利用を検討する場合は、制度の最新情報と適用要件を確認し、余裕を持って準備を進めることが重要です。

順番を間違えると否認されるおそれがある

退職金を使った株価対策は、税務上の要件を慎重に確認する必要があります。

  • 役員退職金規程を整える
  • 会長の退任の実態をきちんとつくる
  • 退職金の支給と株の移転の順序を適切に組む

退職金の金額や退任の実態が適切でなければ、税務上の問題が生じるおそれがあります。顧問税理士を含めた専門家と一緒に、手順を踏んで進めることが大切です。

新ルールでの扱いにも注意
国税庁の有識者会議では、直前の多額の役員退職金など、非経常的な損失を「正常利益」の計算から除く案も示されています。新ルール適用後は、退職金による株価引き下げ効果が限定される可能性があります。

3月決算の会社は「今」動き出さないと間に合わない

確定してから動くのでは遅い

「12月に税制改正大綱が出て、ルールが確定してから動けばいい」と考える社長もいらっしゃるかもしれません。しかし、それでは間に合わない会社もあると私たちは考えています。

株の問題は、すぐに片付くものではありません。

  • 親子間の協議と納得感
  • 株価のシミュレーション
  • 退職金規程や手続きの整備

こうした検討には、数か月程度かかることもあります。3月決算の会社であれば、次の決算が重要なタイミングです。

制度が確定するまで何もしないのではなく、今から準備を始めることが重要です。

社長が今日からできる3つのこと

1.株主名簿を確認し、株の持ち主を整理する

株主名簿を改めて見ると、少数株主も含めて「まだ親族がこんなに持っていたのか」と気づくことがあります。

今の段階で株主構成を把握し、将来の集約方法を検討しておくことで、後々のトラブルを減らせます。

2.「決算があと何回残っているか」を数える

新ルール適用前に残っている決算は、会社によって異なります。現行ルールで対策して株を移すのであれば、次の決算までに何をどうするかを具体的に決めましょう。

3.株主である先代と、今こそ話をする

話しづらかった株の話も、国の制度変更をきっかけにすれば切り出しやすくなります。

先代の老後資金や会社での「居場所」への思いにも耳を傾けながら、渡し方とタイミングを一緒に考えましょう。

まとめ:動かなかった株を動かす、最高のタイミング

  • 経営は移ったのに株が先代に残っている建設会社は少なくない
  • 自社株評価の見直しで、利益が出て純資産が厚い会社は評価が大きく上がる可能性がある
  • 放置すると、相続税の増加、先代の判断能力の低下、株の分散といった問題が起こり得る
  • 3月決算の会社は、次の決算までに準備を進めることが重要

国の方針が変わろうとしている今は、長年動かなかった株を動かす絶好のきっかけでもあります。先代の気持ちに寄り添いながら、親子で一度向き合ってみてはいかがでしょうか。

シードコンサルティングの支援実績

シードコンサルティングでは、20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援し、100件を超える事業承継案件に携わってきました。

今回の事例のように、社長と先代の双方からお話を伺い、株価シミュレーションと移転の段取りを一緒に組み立てることもあります。

建設業特化の承継診断「事業承継ドック」では、株主構成の整理から新ルール後の株価の見立て、移転計画づくりまでをお手伝いしています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 経営は息子に譲ったのに、株は父が持ったままです。何か問題がありますか?

A. 経営が順調であれば、すぐに問題が表に出ないことも多いです。しかし、自社株評価の見直しで株価が上がると、贈与税・相続税の負担が増える可能性があります。また、先代の判断能力が低下すると、贈与や議決権の行使が難しくなるおそれもあります。

Q2. 自社株評価の見直しで、すべての会社の株価が上がるのですか?

A. いいえ。新しい計算方法では、純資産が厚く利益が出ている会社ほど評価が高くなりやすい一方、赤字や低収益の会社は簿価純資産以下になる可能性があります。現行ルールより上がるか下がるかは、個別の試算で確認する必要があります。

Q3. 新ルールが確定してから対策を考えても間に合いますか?

A. 会社によっては間に合わない可能性があります。親子間の協議、株価のシミュレーション、退職金規程の整備などには時間がかかります。特に3月決算の会社は、次の決算までに何を進めるか早めに検討しましょう。

Q4. 先代に株の話を切り出しにくいのですが、どうすればよいですか?

A. 制度変更の可能性を話し合いのきっかけにするのが一つの方法です。先代が老後資金や会社での居場所を気にしていることもあるため、その思いに寄り添うことが大切です。親子だけで難しい場合は、専門家の同席も検討してください。

Q5. 役員退職金で株価を下げてから贈与する方法は、今も有効ですか?

A. 現行ルールでは、退職金の支払いによって株価が下がる場合があります。ただし、退職金の適正額、退任の実態、手続きの順序などに注意が必要です。新ルールの議論では非経常的な損失を正常利益から除く案も示されているため、顧問税理士などと確認しながら進めてください。

この記事の著者

岡田 聡(おかだ さとし)

株式会社シードコンサルティング 代表取締役

建設・リフォーム業界の中小企業に特化した財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援。100件以上の事業承継案件を手がけた実績を持つ。YouTube「建設業支援TV〜お金のミカタ〜」で業界の経営ノウハウを発信中。日本経営士協会 経営士、相続事業承継コンサルティング協会 エグゼクティブコンサルタント。株式会社シードコンサルティングは認定経営革新等支援機関の認定を受けています。

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参考資料

※本記事は2026年10月時点で公表されている資料に基づいています。自社株評価の新ルールや適用時期は確定したものではありません。記載した評価額・税額は個別事例に基づく試算であり、実際の税負担を保証するものではありません。具体的な対策については、顧問税理士などの専門家にご相談ください。

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