建設業の自社株評価が約60年ぶりに見直しへ|利益を出した会社ほど事業承継の負担が増えるのはなぜ?

公開日:2026/10/23

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非上場株式(自社株)の相続税評価ルールが、約60年ぶりに抜本的に見直される方向で議論が進んでいます。

新ルールは2028年1月以降の適用が見込まれており、利益が出ていて純資産が厚い建設会社では、自社株の評価額が現行の2.5〜3.5倍程度に上がる可能性も指摘されています。

すでに株の移転計画を立てている社長ほど、「どの決算期の数字で、いつ株を渡すか」を今のうちに逆算し直す必要があります。

非上場株式の評価見直しとは
国税庁が財産評価基本通達で定める「取引相場のない株式」の評価方法を、会社規模ごとの類似業種比準方式・純資産価額方式の体系から、会社全体の価値と将来の超過利益を基にする「残余利益方式」へ原則一本化しようとする見直しのことです。

ご注意ください
本記事は2026年10月時点の公表資料に基づいています。新しい評価方法や適用開始時期は、まだ正式決定していません。

非上場株式の評価見直しで、何が変わろうとしているのか?

約60年続いた評価ルールが根本から変わる

上場していない会社の株価は、市場価格がないため、国税庁の「財産評価基本通達」に沿って計算します。このルールは1964年(昭和39年)の通達制定以来、大きな枠組みが変わってきませんでした。

2026年4月、国税庁は「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を立ち上げ、同年8月の第5回会議で見直しの骨子を示しました。

骨子では、規模に応じた類似業種比準方式・純資産価額方式の体系を廃止し、評価方式を原則として「残余利益方式」に一本化する方向が示されています。

「残余利益方式」とはどんな計算か

残余利益方式は、ざっくり言えば「簿価純資産」+「数年分の超過利益(残余利益)の現在価値」で会社の価値を評価する考え方です。

2026年8月の骨子や9月の第6回有識者会議の資料では、次のような方向性が示されています。

  • 法人税申告書ベースの数値を使う
  • 超過利益を加算する期間は5年程度とする案
  • 利益は5年平均を基礎とする案
  • 赤字・低収益の会社は簿価純資産以下で評価される方向

つまり、「純資産が厚く、利益をしっかり出している会社」ほど評価が高くなりやすい計算構造です。

いつから適用されるのか

評価ルールは法律ではなく通達で定められているため、通達の変更自体は国会での法律改正を必要としません。

専門家の間では、2026年12月の税制改正大綱への記載、2027年春ごろのパブリックコメントを経て、2028年1月から新ルールが適用されるとの見通しもあります。ただし、国税庁はまだ正式な適用時期を公表していません。

還元率などの水準も議論が続いており、具体的な評価方法や税負担への影響は今後の決定を確認する必要があります。

仮に2028年1月から適用されるとすると、2026年10月時点で残された時間は約1年2〜3か月。決算のタイミングを考えると、会社によっては「あと1回か2回の決算」しか対策を検討できない可能性があります。

なぜ「頑張って利益を出した会社」ほど自社株が上がるのか?

今の評価は、規模の大きい会社ほど低く出やすかった

現行ルールでは、会社を「大会社・中会社・小会社」に区分し、規模が大きいほど上場企業の株価と比べる「類似業種比準方式」の比重が高くなります。この方式は、純資産に比べて評価額が低く出やすいのが特徴です。

国税庁の資料などでは、純資産価額に対する申告評価額の割合(中央値)は大会社で0.32倍、中会社で0.50倍、小会社で0.61倍とされています。

会社規模が大きいほど、純資産に比べて「割安」に評価されていた傾向がうかがえます。

不均衡の是正が見直しの狙い

国税庁は、異なる規模の評価会社間で相対的に不均衡が生じているおそれを指摘しています。会計検査院からの指摘や、評価額を大きく圧縮するスキームへの問題意識も、見直しの背景にあります。

その結果、これまで類似業種比準方式の恩恵を受けていた会社、とくに純資産が厚く利益が出ている会社は、評価額が上がる側に振れる可能性があります。

シードコンサルティングがモデルケースで試算したところでも、現行評価の2.5〜3.5倍程度になるケースが見えてきています。ただし、すべての会社に当てはまる数字ではありません。

「大会社」でなくても他人事ではない

「うちは社員20人くらいの会社だから関係ない」と思われるかもしれません。しかし、会社区分は業種・売上・従業員数の組み合わせで決まるため、意外と中会社の上位、つまり大会社に近い区分で評価されている建設会社は少なくありません。

創業から長く、内部留保が積み上がっていて、ここ数年しっかり利益を出している——そんな会社の社長ほど、今回の話を自分ごととして見ていただきたいと思います。

【事例】株価が約3倍になる見立てが出た工務店のケース

公開前確認:以下は原稿に記載された相談事例です。匿名化した会社概要・数値・掲載許可について、岡田氏への確認が必要です。

ここからは、実際にご相談いただいた会社の事例を、特定できないよう数字を丸めてご紹介します。

会社の概要と、もともとの承継計画

  • 業種:工務店(創業から長い会社)
  • 社長:2代目、60代
  • 年商:約6億円
  • 営業利益:ここ数年で年2,000万円程度を出せる体質に改善
  • 純資産:約1.4億円
  • 発行済株式:6,000株

社長は、あと2年ほどで退任して役員退職金を受け取り、退職金の支払いで株価が下がった決算期の後に、後継者へ株を移す計画を立てていました。

退職金で株価の「谷」をつくり、そこで株を渡す。これまでの事業承継では、一般的に活用されてきた段取りです。

株価シミュレーションで見えた「3倍」

ところが、公表されている見直しの方向性をもとに株価をシミュレーションしたところ、次のような見立てになりました。

タイミング 1株あたりの評価(目安) 6,000株の評価総額(目安)
現行ルール・通常時 約5,000円 約3,000万円
現行ルール・退職金支払い後の「谷」 約2,800円 約1,700万円
見直しルール適用後(仮定) 約15,000円 約9,000万円

※いずれも概算です。見直し後の数値は検討中の評価方法を用いた仮定の試算であり、正式な評価額ではありません。

贈与税の負担はどれくらい変わるか

後継者に株を贈与する場合、「相続時精算課税制度」を利用すると、累計2,500万円までの特別控除に加え、2024年以降は別枠で年110万円の基礎控除があります。

退職金支払い後の「谷」(約1,700万円)で渡せた場合
特別控除の範囲内に収まり、一定の条件のもとでは、贈与時の税負担をゼロにできる可能性があります。

見直し後(約9,000万円)で渡す場合
特別控除を超える部分に20%の税率がかかり、一定の条件を仮定すると、贈与税が概算で1,200万円台になる可能性があります。相続時には別途精算の対象となります。

※相続時精算課税を初めて利用し、他の贈与がない場合などを想定した概算です。実際の課税関係は贈与の時期・金額・適用要件などで異なります。

同じ会社、同じ株数でも、どの決算期の数字で、いつ渡すかによって、後継者の負担が大きく変わり得るということです。

退職金・持株会社など「従来の株価対策」は今後も効くのか?

これまでの代表的な株価対策

これまで自社株の評価を下げる方法として、よく次のような手段が使われてきました。

  • 役員退職金を支払って、その期の利益と純資産を下げる
  • 会社区分を「大会社」に寄せて、類似業種比準方式の比重を高める
  • 持株会社を設立して評価を圧縮する

見直しの議論では、こうした手法に手当てが入る方向

2026年9月の第6回有識者会議の資料では、直前期に多額の役員退職慰労金を支払って評価を圧縮するケースへの対応として、退職金などの非経常的な損失を「正常利益」の計算から除く案が示されています。

会社規模による区分も、残余利益方式への一本化によって意味が薄れる方向です。

つまり、「退職金を払ったら株価が下がるので、その後ゆっくり株を渡せばいい」という前提が、新ルール適用後は成り立たなくなる可能性があるということです。

先ほどの工務店のケースでも、退職金で株価の「谷」をつくる計画自体が、タイミング次第では効かなくなるおそれがあります。

それでも「株価の谷」を活かせるのは、新ルール適用前

裏を返せば、現行ルールが適用されている間であれば、退職金などによる株価の谷を活かせる余地はまだあります。

だからこそ、新ルールの適用が見込まれる2028年1月より前に、どの決算期で株価がどう動くかを見極めることが重要になります。

注意点:役員退職金の支払いによる株価への影響は、退職金額や会社の財務状況などによって異なります。株価対策だけを目的に支給時期を決めず、資金繰りや税務上の要件も含めて検討する必要があります。

社長が今すぐやるべき3つのステップ

ステップ1:自社株の「現状の株価」と「新ルール後の見立て」を両方知る

まずは、現行ルールでの自社株評価がいくらなのかを把握します。そのうえで、公表されている見直しの方向性で計算した場合に、どこまで上がり得るかを試算します。

会社によっては、逆に評価が下がるケースもあり得ます。対策を打つべきかどうかは、この比較を見てから判断しましょう。

ステップ2:決算期から逆算して「あと何回の決算で手を打てるか」を数える

株価は決算を締めるごとに変わります。次の決算までにできること、2027年12月末までにできること、それ以降にできることは、それぞれ違います。

「あと何回、決算を迎えられるか」から逆算して、退職金の支給時期や株の移転時期の順序を組み直しましょう。

ステップ3:顧問税理士を含めた専門家チームで、個別事情に合わせた計画を立てる

新ルールはまだ確定していません。確定してから動き出すと、手を打つ時間が足りなくなるおそれがあります。

最新情報を確認しながら、「現在の制度でできること」と「見直しが実施された場合に備えること」の両方を見据えて判断することが大切です。

税制が絡むテーマですので、顧問税理士を含めた専門家と連携して計画を立ててください。

まとめ:実力ある会社だからこそ、承継の「段取り」で損をしないために

  • 非上場株式の評価ルールは約60年ぶりの抜本見直しに向けて議論が進んでおり、2028年1月以降の適用が見込まれている
  • 新しい評価方式では、利益が出ていて純資産が厚い会社ほど、自社株の評価が上がりやすくなる可能性がある
  • 退職金で株価の谷をつくるといった従来の対策は、新ルール後は効きにくくなる可能性がある
  • どの決算期に株を渡すかで、後継者の税負担が大きく変わり得る

頑張って利益を出し、会社を強くしてきたこと自体は、まったく悪いことではありません。むしろ、実力ある会社が正当に評価される時代になったとも言えます。

大切なのは、その実力を後継者への「負担」にしてしまわないよう、今のうちに段取りを整えておくことです。

シードコンサルティングの支援実績

シードコンサルティングでは、20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援し、100件を超える事業承継案件に携わってきました。

今回の評価見直しについても、国税庁の有識者会議の動向を継続的に確認しながら、個別の会社ごとに株価シミュレーションを行い、移転のタイミングや対策の順序を一緒に検討しています。

建設業特化の承継診断「事業承継ドック」では、自社株の現状評価に加え、新ルール適用後の見立て、決算期から逆算した移転計画までを整理します。

よくある質問(FAQ)

Q1. 非上場株式の評価見直しは、いつから適用されますか?

A. 国税庁はまだ正式な適用時期を公表していませんが、2026年12月の税制改正大綱、2027年春ごろのパブリックコメントを経て、2028年1月から適用される見通しも示されています。今後の公表内容で変わる可能性があるため、最新情報の確認が必要です。

Q2. どんな会社の自社株が上がりやすいのですか?

A. 純資産が厚く、ここ数年安定して利益を出している会社や、これまで類似業種比準方式で評価が低く抑えられていた会社は、評価が上がる側に振れる可能性があります。シードコンサルティングのモデルケースでは、現行評価の2.5〜3.5倍程度になる試算もありますが、実際の影響は会社ごとに異なります。

Q3. 役員退職金を払えば、今後も株価を下げられますか?

A. 現行ルールでは、退職金の支払いによって株価が下がる効果が期待できる場合があります。ただし、見直しの議論では、退職金などの非経常的な損失を正常利益の計算から除く案が示されており、新ルール適用後は効果が限定される可能性があります。支給時期と株の移転時期を早めに検討することが重要です。

Q4. 社員20人程度の建設会社でも影響はありますか?

A. 影響を受ける可能性があります。会社区分は業種・売上・従業員数の組み合わせで決まるため、年商数億円規模の建設会社でも中会社の上位区分で評価されているケースがあります。原稿で紹介した年商約6億円の工務店でも、評価が大きく変わる見立てが出ています。

Q5. まず何から始めればよいですか?

A. 最初の一歩は、自社株の現状評価と、新ルール適用後の見立ての両方を知ることです。そのうえで、決算期から逆算して手を打てる回数を確認し、顧問税理士を含めた専門家と移転計画を立てることをおすすめします。

この記事の著者

岡田 聡(おかだ さとし)

株式会社シードコンサルティング 代表取締役

建設・リフォーム業界の中小企業に特化した財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援。100件以上の事業承継案件を手がけた実績を持つ。YouTube「建設業支援TV〜お金のミカタ〜」で業界の経営ノウハウを発信中。日本経営士協会 経営士、相続事業承継コンサルティング協会 エグゼクティブコンサルタント。株式会社シードコンサルティングは認定経営革新等支援機関の認定を受けています。

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参考資料

※本記事は2026年10月時点で公表されている有識者会議資料などをもとに執筆しています。残余利益方式の採用、具体的な評価方法、適用開始時期は正式決定していません。実際の株価評価や税務上の対策については、顧問税理士などの専門家にご相談ください。

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