建設業はいま「大承継時代」へ。廃業する会社の約半分は黒字——後悔しない『継げる会社』の作り方
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2026年上半期、建設業を含む倒産・廃業は過去最多ペースで推移し、なかでも工務店・住宅業界の廃業が急増しています。
しかし、これは「大廃業時代」の到来ではありません。後継者不在率は71%から57.3%へ改善し、小規模M&Aや第三者承継の受け皿が急速に整いつつある——いまはむしろ「大承継時代」です。
本記事では、500社超の建設業を支援してきたシードコンサルティングの知見をもとに、なぜ多くの会社が「廃業」を選んでしまうのか、そして畳む前に検討すべき出口の選択肢と、いつでも継いでもらえる「継げる会社」をつくる5つの条件を解説します。
| 過去最多 ペース 2026年上半期 倒産・廃業 |
57.3% 建設業の 後継者不在率 |
約50% 廃業のうち 黒字廃業 |
62.49歳 後継者不在企業 社長の平均年齢 |
「大承継時代」とは、
後継者不在や廃業が増える一方で、M&Aや第三者承継の「受け皿」が急速に整い、どんな中小建設会社でも一定の価値をつけて「継いでもらえる」選択肢を持てるようになった時代を指します。廃業しか道がないように見えても、準備次第で会社・雇用・顧客を次の世代に引き継げる——それがいまの建設業界の実態です。
いま建設業で何が起きているのか——2026年上半期、倒産・廃業が過去最多ペース
前回の動画では、住宅メーカー・アエラホームの民事再生を取り上げました。これは象徴的な出来事ですが、いま住宅業界、特に工務店の廃業・倒産は静かに、しかし確実に増え続けています。
「大廃業時代」と呼ばれる背景
2026年上半期の倒産・廃業件数は、上半期ベースでリーマンショック直後を上回る過去最多ペースで推移しているといわれます。原材料価格の高騰(ナフサショック)の影響を受け、住宅・工務店業界のダメージは特に大きく、「このまま続けるより、傷が浅いうちに畳もう」と考える経営者が増えているのが実情です。
60歳以上の経営者のうち、将来の廃業を予定している割合は50%を超えるとされます。小規模の事業者ほど「もう十分やった、終わってもいい」と、後継者を探すことなく会社を閉じるケースが目立ちます。
廃業する会社の約半分は「黒字廃業」
見落とされがちですが、廃業する会社のおよそ半分は「黒字廃業」——赤字で追い込まれてやめるのではなく、まだ利益が出ている黒字のうちに会社を閉じています。逆に赤字の会社は「やめるにやめられず」、資金繰りに追われながらギリギリまで頑張ってしまう傾向があります。
つまり、体力のある会社ほど早めに畳み、体力のない会社ほど最後まで残る、という逆転が起きているのです。
9割近くが後継者探しに動かないまま閉じている
さらに深刻なのは、廃業した会社の9割近くが、後継者を探す取り組みを特に行っていなかったという点です。「後継者もいないし、うちの会社なんて誰も継がないだろう」——そう思い込んで、動くことなく閉じてしまう。ここに、多くの会社が本来あったはずの選択肢を手放している現実があります。
それでも「大承継時代」と呼べる理由——受け皿は確実に増えている
現実は厳しく見えます。しかし、私たちが「大廃業時代ではなく大承継時代だ」と伝えているのには、はっきりした根拠があります。
後継者不在率は71%→57.3%へ改善
建設業の後継者不在率は、2018年には約71%でした。それが現在は57.3%まで低下しています。M&Aや第三者承継の広がりで後継者が「見つかる」ようになってきた一方、後継者不在のまま廃業していった会社が数字から抜けていった影響もあります。それでも、承継のインフラが整いつつあること自体は確かな変化です。
なお、後継者不在企業の社長の平均年齢は62.49歳。この年齢からゼロで後継者を育てるのは容易ではなく、だからこそ「継げる状態」をあらかじめ準備しておくことが重要になります。
年商5,000万〜3億円の「小規模M&A」が広がっている
かつてM&Aといえば大企業だけのものでした。ところが近年は、年商5,000万〜3億円程度の比較的小規模な事業者を対象とした「小規模M&A」が急速に広がっています。事業引継ぎ支援センターなどの窓口も拡充され、「小さい会社だから買い手がつかない」という時代ではなくなってきました。
黒字工務店にはちゃんと値段がつく
「うちなんか価値はつかないだろう」と思っていても、黒字の工務店には相応の値段がつきます。目安としては、EBITDA(営業利益+減価償却費)の2〜3倍程度に、純資産を加えた水準が一つの価値付けになります。純資産の厚い会社であれば、さらに評価は高くなります。
全部を整理して廃業してしまうより、利益が出ているうちに価値をつけて引き継いだ方が、社員も顧客も、これまで積み上げてきた資材・工具・信用も、まとめて次の世代に残せます。シードコンサルティングでも建設業のM&Aを数多く手がけていますが、廃業件数がこれだけ増えているいま、「畳む」より「継いでもらう」ほうが得られるものは大きいと考えています。
廃業か承継か——「金額」だけで判断する前に考えたいこと
とはいえ、承継が万能というわけではありません。現場のリアルな悩みにも触れておきます。
仲介フィーの壁——小規模ならではの難しさ
先日も、ある70歳の工務店の社長からこう言われました。「うちの価値は今の状態で3〜4,000万円くらい。でも仲介に頼むと2,000万円取られると聞いた。それなら何も残らないじゃないか」と。
小規模だからこそ、仲介フィーに見合う規模なのか、アドバイザーをつけずに自分たちだけで進められるほど簡単でもない——という難しさが確かに存在します。仲介フィーが、本来価値ある承継の妨げになってしまうのは残念な状況です。
お金だけではない「意義」——雇用・顧客・地域を守る
一方で、判断基準は金額だけではありません。手元に残るお金が少なかったとしても、従業員の幸せ、地域の顧客の幸せ——お金には換えられない「やっただけの意義」がある承継はたくさんあります。
70歳まで頑張ってきた社長にとって、いま欲しいのは大きな売却益というより、「何十年もかけて育ててきたものを、意義ある形で次の世代に残したい」という思いではないでしょうか。無形の満足感や価値も含めて、廃業という選択肢の前に一度、「本当に他の道はないだろうか」と考えてみる価値があります。
出口の選択肢は一つではない
事業が立ち行かなくなったからといって、承継先がないとは限りません。実際に検討できる出口には、次のようなものがあります。
1. 通常のM&A
健全な会社が価値をつけて第三者に承継する方法。
2. 再生型・スポンサー型承継
経営が厳しくなった局面でも、スポンサーが事業を引き継ぐ方法。前回取り上げたアエラホームのように、大手だけでなく小規模でもスポンサーがついて事業を継続するケースは、建設業でも実は増えています。
3. 水平統合
地域内の小規模な会社どうしが一緒になる方法。単独では勝てなくても、近隣と統合して強い会社をつくる道です。
4. 資本業務提携
時間が経てば経つほど、取れる選択肢は減っていきます。再生型・スポンサー型は最終手段として残しつつ、その手前で早めに手を打つことが肝心です。
倒産・廃業する工務店と生き残る工務店を分ける「3つの能力」
今回のナフサショックで淘汰されていく会社と生き残る会社を分けているのは、次の3つの能力だと考えています。
1. 調達力
モノ不足が起きたとき、資材が入る会社と入らない会社の差が広がります。良い会社には良い人材・良い資材が集まり、そうでない会社は滞る。交渉力を含めた調達力は、小規模な会社ほど大手に対して弱くなりやすく、ボトルネックになっています。
2. 仕組み化・標準化
属人的なやり方から脱し、業務を標準化して回る状態をつくれているか。ここが整っていないと、規模を保つことも品質を保つことも難しくなります。
3. 組織化
社長がいなくても現場が回る状態になっているか。社長依存の会社は、承継の場面でも買い手の場面でも評価が下がります。この「組織化」の壁こそ、小規模事業者にとって最大の課題です。
これら3つが弱い会社が、いま静かに倒産・廃業へと向かっているのが実態です。
「継げる会社」をつくる5つの条件
続けてもいい、やめてもいい、いつでも継いでもらえる——そんな「継げる会社」であれば、経営者は安心して次の一手を選べます。そのために磨いておくべき条件は次の5つです。
1. 数字が見えていること
案件別・月次で財務の実態を把握できているか。
2. 社長がいなくても回る状態になっていること
3. 個人保証が解除されていること
借入の個人保証は承継の大きな障害になります。
4. 株が分散していないこと
5. 他社にない強みがあること
5つの条件は、そのまま買い手の評価ポイントでもある
重要なのは、この5条件が「M&Aの買い手が見るポイント」と、「後継者が『継いで自分は困らないか』を見るポイント」の両方と一致しているということです。
つまり5条件を準備しておけば、第三者に売れる状態になると同時に、身内でも継ぎやすい状態になる。どちらの出口にも効く「両利き」の準備なのです。
シードコンサルティングでは、500社超の建設業支援と100件超の事業承継案件の経験から、この5条件を一つひとつ磨き上げ、いつでも継げる・売れる会社づくりを伴走支援しています。
良い会社にも悪い会社にも「課題」はある
面白いことに、出口で悩む理由は正反対です。利益・黒字・純資産の厚い「良い会社」は、株価が高く税負担が重いために、かえって事業承継や移転コストがネックになります。逆に資金繰りに追われる会社は、評価はつかない代わりに税金の心配はないが、負債という課題を抱える。どちらにしても課題がない会社はありません。だからこそ、第三者承継を含めた選択肢を、早いうちに幅広く持っておくことが大切です。
ピンチはチャンス——どんな会社でも「継げる時代」に
廃業が増えているのであれば、まだ状態が良いうちに、良い会社に引き継いでもらう。そんなに高い価値がつかなくても、顧客を守り、雇用を守り、会社を守れる形で、一定の価値をつけて出口を設けていく。廃業がこれだけ増えるいまだからこそ、こうして会社を残す経営者が増えてほしいと考えています。
継いでもらうためのインフラは整ってきました。あとは、皆さんがどう準備するか次第です。畳む前に、選択肢は本当にないだろうか——今日から、いろいろなチャンスが広がっています。
よくある質問(FAQ)
Q. 「大廃業時代」と「大承継時代」は何が違うのですか?
A. 「大廃業時代」は廃業・倒産の増加という現象に注目した見方ですが、「大承継時代」は、その裏で第三者承継・M&Aの受け皿が急速に整い、どんな中小建設会社でも継いでもらえる選択肢が広がっている状況に注目した見方です。後継者不在率は2018年の約71%から57.3%へ改善しており、準備さえすれば会社を残せる時代になっています。
Q. 黒字なのに廃業を選ぶ会社が多いのはなぜですか?
A. 廃業する会社の約半分は黒字廃業です。「後継者がいない」「もう十分やった」という理由で、まだ利益が出ているうちに閉じてしまうケースが多いためです。しかし黒字で純資産のある会社には、EBITDAの2〜3倍+純資産といった相応の価値がつきます。畳んでしまう前に、価値をつけて引き継ぐ選択肢を検討する価値があります。
Q. 年商1億円未満の小さな工務店でもM&Aは可能ですか?
A. 可能です。近年は年商5,000万〜3億円程度の「小規模M&A」が広がっており、小さい会社だから買い手がつかないという時代ではなくなりました。ただし、仲介フィーが規模に見合うか、アドバイザーをつけるべきかといった小規模ならではの判断が必要になります。シードコンサルティングでは、規模に応じた最適な出口設計をご提案しています。
Q. 「継げる会社」になるには何を準備すればよいですか?
A. 5つの条件を磨くことをお勧めします。①数字が見えている、②社長がいなくても回る、③借入の個人保証が解除されている、④株が分散していない、⑤他社にない強みがある——の5つです。これらはM&Aの買い手が見るポイントでもあり、身内承継の継ぎやすさにも直結します。準備には数年単位の時間がかかるため、早めの着手が有効です。
Q. 事業を続けるのが難しくなった会社でも、承継先は見つかりますか?
A. 見つかる可能性は十分にあります。通常のM&Aだけでなく、スポンサーが事業を引き継ぐ「再生型・スポンサー型承継」や、地域内の会社どうしの統合、資本業務提携など、複数の選択肢があります。ただし時間が経つほど選択肢は減るため、状態が良いうちの相談をお勧めします。
この記事の著者
岡田 聡(おかだ さとし)
株式会社シードコンサルティング 代表取締役
建設・リフォーム業界の中小企業に特化した財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援。100件以上の事業承継案件を手がけた実績を持つ。YouTube「建設業支援TV〜お金のミカタ〜」で業界の経営ノウハウを発信中。日本経営士協会 経営士、相続事業承継コンサルティング協会 エグゼクティブコンサルタント。
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