建設業の自社株評価はなぜ上がる?優良企業が事業承継で「今できる」対策を解説
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自社株評価が上がる前に、建設会社の経営者は今、何をすべきなのでしょうか。
結論から言えば、答えは「待つのではなく、現行ルールが使えるうちに動く」ことです。
約60年ぶりとされる非上場株式の評価ルール見直しにより、純資産の厚い優良な建設会社ほど自社株の評価額が上がる方向にあり、日経新聞の報道では税負担が8.6倍になった試算例も紹介されています。
制度の切り替えまでにはまだ1年半ほどの猶予があると見られ、この期間の使い方が後継者の税負担を大きく左右します。
自社株評価の見直しとは、
これまで約60年にわたって使われてきた非上場株式(取引相場のない株式)の評価方法を改め、内部留保や自己資本が厚い会社ほど株価評価が高く算定されやすくする税制上の変更のことです。
なぜ今、優良な建設会社ほど自社株評価が上がるのか
約60年ぶりの評価ルール見直し
前回の記事
でもお伝えしたとおり、非上場株式の評価方法が約60年ぶりに見直される方向で議論が進んでいます。国税庁の有識者会議で叩き台が示され、日経新聞でも報じられている論点です。
とりわけ影響を受けるのが、株を持つオーナー経営者で、今後の事業承継を考えている方です。
息子に継がせようか、社内の幹部に継がせようかと考えている段階の社長にとって、自社株の評価は避けて通れません。贈与するにしても相続するにしても、評価額が高くなれば後継者が大きな納税資金を用意しなければならず、これが事業承継の大きな足かせになってきました。
これまでの制度では、対策を打つことで自社株評価をある程度まで大きく下げることができました。しかし新しいルールでは、その余地が小さくなると見られています。私たちが現場で見てきた実感としても、この変更は決して小さな話ではありません。
純資産の厚い会社ほど評価が上がる仕組み
今回の見直しの特徴は、内部留保、つまり自己資本が分厚い会社ほど評価が上がりやすい仕組みになっている点です。堅実に利益を積み上げ、財務体質を強くしてきた「優良企業」ほど影響が大きくなります。
建設業は、工事の受注に備えて自己資本を厚くしておくことが経営の安定につながる業種です。
その結果、まじめに利益を積み上げてきた会社ほど、自社株評価が上がりやすいという構図になっています。
日経新聞が報じた「8.6倍」の試算例
日経新聞の記事では、ある税理士が試算した具体例が紹介されています。
| 項目 | 試算例 |
|---|---|
| 売上 | 17億円 |
| 利益 | 2,900万円 |
| 純資産 | 4.9億円 |
| 現行ルール | 1,100万円 |
| 新ルール | 9,300万円 |
1,100万円 → 9,300万円
試算上の評価額は、実に約8.6倍です。
もちろんこれは一つの試算例であり、実際の評価額は会社ごとの状況によって変わります。ただ、方向性として「純資産の厚い会社は評価が上がる」ことが示されている点は、経営者として押さえておきたいところです。数千万円単位で納税負担が変わる可能性があるとすれば、これは真剣に考える余地があるのではないでしょうか。
見直しはいつから?スケジュールの見立て
「では、いつから変わるのか」が最大の関心事だと思います。現時点での私たちの見立ては次のとおりです。
現在
有識者会議で叩き台が公開され、内容がある程度固まってきた段階
2027年度
パブリックコメント等を経て、通達改正が示される可能性
2028年1月ごろ
新ルールの適用開始が想定される
これはあくまで現時点の予測であり、正式なスケジュールは今後の公表を待つ必要があります。
ただ、この見立てが正しければ、制度が変わるまでにあと1年半ほどの猶予があるということになります。もともと株を引き継ごうと考えていたのであれば、それが「1年半前」なのか「1年半後」なのかで納税額が大きく変わる可能性があります。だからこそ、この期間の判断が重要になります。
まず確認したい「上がる会社」と「下がる会社」の違い
対象は内部留保が厚く純資産の大きい会社
今回の話が当てはまるのは、オーナー経営者で、内部留保が厚く、自社株評価が高い会社です。財務内容が良く、純資産の大きい会社ほど影響を受けます。株式を移転すると税金がかかることを心配している社長・後継者は、まさに対象と言えます。
年商1〜2億円未満の小規模企業はむしろ下がる可能性
一方で、すべての会社の評価が上がるわけではありません。報道を見る限り、比較的小規模な事業者、目安として年商1〜2億円未満程度の会社は、逆に相続税評価が下がる可能性もあると見られています。
自社株評価には会社の規模に応じた区分(大会社・中会社・小会社)があり、この区分によって評価の考え方が変わります。小規模な会社にとってはメリットが出るケースもあるため、そうした会社はむしろ新制度を待った方がよい場合もあります。
まず確認すべきなのは、自社が「上がる会社」なのか「下がる会社」なのか。
この記事は、自社株評価が「上がる会社」に向けた内容です。
自社株評価が上がる前に今できる3つのステップ
上がる方向がある程度見えているのであれば、将来の制度に期待して待つのではなく、今ある判断材料の中で検証することができます。対象となる会社が今やるべきことを、3つのステップに整理しました。
ステップ1:株価が下がるタイミングを設計する
現行ルールは、対策を打つと株価が大きく下がる制度です。今のうちであれば、この仕組みを活かして評価を下げるタイミングを設計できます。
代表的なのが退職金の活用です。退職金をしっかり支給することで、一時的に利益の圧縮や純資産の圧縮が進み、株価評価が大きく下がります。これは以前から使われてきた手法ですが、現行制度では特に有効に効きます。新制度になると効果が落ちる可能性があります。
ただし退職金は、単なる株価対策ではありません。社長自身の引退の決断とセットで考えるべきものです。
1〜2年のうちに自分は退き、退職金を受け取って後継者に渡そうと考えている方であれば、これは非常に相性の良い設計になります。引退時期が視野に入っているなら、退職金と決算のタイミングを合わせて設計することをおすすめします。
ここで重要になるのが決算のタイミングです。株価評価は、決算を締めた翌年に前年度の決算内容を反映して算定されます。現行制度があと1年半ほど続くとすれば、その間に決算を締めるタイミングが来ます。
その決算をどう締め、評価が下がった期間に株式の移転や対策を行うか——この設計が鍵になります。現場に出て忙しい社長ほど、気づけば間に合わないということが起こりがちです。だからこそ、直近の決算の締め方を早めに意識しておくことが大切です。
ステップ2:現行ルールのうちに株式を移転する
決算を締めて株価評価が下がったタイミングで、後継者へ株式を移転します。方法はいくつかあります。
・息子への一括贈与
・後継者による買取
・社内の社員・幹部による買取
どの方法を選ぶにしても、株価評価が大きく下がる現行制度のうちに移転させることが、計画として立てられる有効な選択肢になります。評価が低い今のタイミングを逃さないことが、後継者の負担を軽くします。
ステップ3:相続時精算課税で「今の評価」をロックする
やや専門的になりますが、相続時精算課税という制度の活用も選択肢です。これは相続対策や事業承継の株価対策でよく使われる制度で、贈与した時点の評価額が、そのまま将来の相続財産に加算される仕組みです。
今の低い評価額のうちに贈与しておけば、その後ルールが新制度に変わって株価評価が上がっても、贈与時点の低い評価のまま持ち越すことができます。
いわば「今の評価でロックする」というイメージです。
相続時精算課税には2,500万円の特別控除枠があります。たとえば自社株評価が2,500万円であれば、この枠を使うことで贈与税0円で移転できる計算になります。
ただし、節税だけを目的にテクニカルに使うものではありません。専門の税理士とよく相談しながら、適切に用いることが前提です。使い方を誤ると思わぬ結果になることもあるため、必ず専門家に確認しながら進めてください。
私たちも、いくつもの会社で専門税理士と一緒にこうした設計に取り組んでいます。
あわせて検討したいその他の対策
暦年贈与と事業承継税制(期限は2027年12月31日)
3つのステップ以外にも、暦年贈与を使って徐々に株式を移しながら相続税対策を進める方法があります。
また、事業承継税制も検討に値します。現行の事業承継税制は、贈与・相続の際にこの制度を使うと納税が一旦猶予され、実質的に税金0円で株を引き継げるというものです。
ただし、これは「猶予」であって「免除」ではありません。
現在は、この猶予を「免除」する方向での検討も進んでいますが、その分、成長投資や賃上げといった要件をクリアする必要が出てくると見られ、取り組める会社は限られる可能性があります。
重要なのは、現行の事業承継税制には期限がある点です。適用期限は2027年12月31日までとされています(特例措置の適用に関する期限。詳細は必ず専門家にご確認ください)。
締め切りが近づいているため、これを使うかどうかの検証は早めに進めておきたいところです。将来の新しい制度に期待して待つのはリスクであり、今使える制度をどう組み合わせるかを考える方が現実的です。
後継者との合意形成・経営者保証の解除
税金の話の前に、そもそも後継者が「継ぎたい」と思っているかどうかの確認が欠かせません。
後継者が株を引き継ぎたいと思っていても、なかなか自分からは言い出しにくいものです。逆に、社長が「継いでほしい」と思っていても、切り出すと気まずくなりそうで言えない、ということもよくあります。
こうした意思の確認と並行して、経営者保証の解除など、株式以外の承継課題も進めておく必要があります。株の移転だけでなく、会社を継ぐための全体像を整えることが、円滑な承継につながります。
「株価が上がる前に」は親子の対話のきっかけになる
今回の税制変更は、実は親子で承継の話を始めるきっかけにもなります。「このまま行くと株価が上がってしまうらしい」という事実は、感情論ではなく制度の話として切り出せるからです。
「お父さん、今の株価がこのまま行くと、新制度になる2028年以降にかなり上がる可能性がある。期限がある話だから、今のタイミングで一度見て、考えてみようよ」
このように、期限のある客観的な事実をきっかけにすることで、承継の対話を前に進めやすくなります。
まとめ:将来の制度に期待して待つのはリスク
自社株評価が上がる方向がある程度見えている今、将来の制度に期待して何もせずに待つことは、それ自体がリスクになり得ます。どんな制度になるかは確定していませんが、現行ルールで打てる手はまだあります。
1.退職金と決算タイミングを合わせた株価の設計
2.現行ルールのうちの株式移転
3.相続時精算課税による評価のロック
これらは今だからこそ選べる選択肢です。あと1年半ほどとされる猶予の中で、自社が「上がる会社」なのか「下がる会社」なのかを見極め、上がる会社であれば早めに検証を始めることをおすすめします。
シードコンサルティングでは、これまで500社を超える建設業を支援し、100件以上の事業承継案件を手がけてきました。その現場経験から言えるのは、事業承継は「早く動いた会社ほど選択肢が多い」ということです。
制度が変わる前の今こそ、自社の株価がどうなるのかを一度確認しておく価値があります。
※自社株評価や贈与・相続のタイミング、相続時精算課税などは、会社ごとの状況によって最適な進め方が異なります。大きな資産に関わることですので、必ず税理士を含む専門家にご相談のうえ、適切に進めてください。本記事の内容は一般的な情報提供であり、個別の税務・法務判断を保証するものではありません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 自社株評価の見直しは、いつから始まるのですか?
A. 正式な時期は未確定ですが、私たちの見立てでは、2027年度にパブリックコメントや通達改正を経て、2028年1月ごろから新ルールの適用が始まるのではないかと考えています。現時点であと1年半ほどの猶予があると見られます。ただしこれは予測であり、正式なスケジュールは今後の公表をご確認ください。
Q2. どんな会社の自社株評価が上がるのですか?
A. 内部留保が厚く、純資産の大きい優良企業ほど評価が上がりやすいと見られています。堅実に自己資本を積み上げてきた建設会社は特に注意が必要です。一方、年商1〜2億円未満程度の小規模な会社は、むしろ評価が下がる可能性もあります。まずは自社がどちらに当てはまるかの確認が第一歩です。
Q3. 相続時精算課税を使うと、なぜ評価を「ロック」できるのですか?
A. 相続時精算課税では、贈与した時点の評価額がそのまま将来の相続財産に加算されます。そのため、株価評価が低い今のうちに贈与しておけば、その後に新制度で評価が上がっても、贈与時点の低い評価のまま持ち越せます。2,500万円の特別控除枠もありますが、使い方には専門的な判断が必要なため、必ず税理士にご相談ください。
Q4. 退職金を使うと本当に株価は下がるのですか?
A. 退職金を支給すると利益や純資産が一時的に圧縮され、株価評価が下がる傾向があります。現行制度ではこの効果が特に大きく効きます。ただし退職金は社長の引退の決断とセットで考えるべきものです。1〜2年内の引退が視野に入っているなら、退職金と決算タイミングを合わせた設計が有効です。効果や具体的な金額はケースにより異なるため、専門家にご確認ください。
Q5. まず何から始めればよいですか?
A. 最初のステップは「自社の現在の株価がいくらで、新制度になるとどれくらい上がりそうか」の見立てを持つことです。この概算がわかると、対策を打つべきか、待つべきかの判断材料になります。シードコンサルティングでは、この見立てのお手伝いをしています。詳しくは末尾のご案内をご覧ください。
著者情報
岡田 聡(おかだ さとし)
株式会社シードコンサルティング 代表取締役
建設・リフォーム業界の中小企業に特化した財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援。100件以上の事業承継案件を手がけた実績を持つ。YouTube「建設業支援TV〜お金のミカタ〜」で業界の経営ノウハウを発信中。日本経営士協会 経営士、相続事業承継コンサルティング協会 エグゼクティブコンサルタント。
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