事業承継は「いくらで売るか」より「いくら残るか」。手残りが1億円変わる設計とは

カテゴリ:事業承継

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同じ10億円で会社を売っても、進め方次第で手元に残る金額は1億円以上変わることがあります。

ポイントは「売却価格」ではなく「売却の設計」です。とくに2027年からのミニマムタックス強化を控える中、いつ・どの順番で・どう分けて承継するかが、次世代に残せる資産を大きく左右します。

「うちはいくらで売れるのか」。事業承継やM&Aを考える経営者の関心は、まずこの一点に集まります。しかし、高値で売れても手残りが減ってしまえば意味がありません。本記事では、手残りを最大化する承継設計の考え方を解説します。

10億円
モデルケースの
売却規模
1億円超
設計次第で変わる
手残りの差
2027年
ミニマムタックス
強化予定
全体設計
売却価格より
重要な視点

事業承継の「手残り最適化」とは
売却価格を最大化することではなく、税負担・実行時期・資産の切り分けを含めた全体設計によって、経営者と次世代の手元に残る金額を最大化する考え方です。

いま資産のある会社に迫る「2つの変化」

歴史があり、資産規模の大きい建設会社ほど、事業承継の局面でいま二つの変化に直面しています。

変化1:ミニマムタックス強化で「売る年」の重みが増している

ミニマムタックスとは、高額所得者に最低限の税負担を求める制度です。正式には「特定の基準所得金額の課税の特例」と呼ばれます。

株式や不動産の売却益は、通常の給与所得などとは分けて課税されるため、金額が大きくなっても税率が一定になりやすい仕組みです。この「1億円の壁」と呼ばれる不均衡を是正するために設けられた制度が、ミニマムタックスです。

注目すべきは、2027年分の所得税から制度の強化が予定されている点です。

項目 2026年分まで 2027年分以降の予定
特別控除額 3.3億円 1.65億円
税率 22.5% 30%
追加課税の目安 株式譲渡益おおむね10億円超 株式譲渡益おおむね3.4億円超

これまで一部の超富裕層だけに関係するように見えた制度が、株価数億円規模のオーナー経営者にも影響しやすい制度へ変わろうとしています。

同じ売却額でも、売る年で手残りが変わる
同じ10億円の株式譲渡でも、2026年中に実行する場合と2027年以降に実行する場合で、手残りが約1億円変わる可能性があります。

ただし、「2026年中に急いで売ればよい」という単純な話ではありません。会社の磨き上げ、買い手候補の選定、資産の整理など、準備が整っていなければ条件を悪化させる可能性もあります。

株式譲渡の所得を認識する時期は、契約内容や実行時期など個別の事情によって変わります。具体的な有利・不利は、顧問税理士などの専門家へ確認する必要があります。

※ミニマムタックスの見直し内容は税制改正大綱をもとにしたもので、今後の法令化や詳細確定により変更される可能性があります。

変化2:歴史ある会社ほど「事業」と「資産」が一つの箱に混在している

長く続いてきた会社ほど、本社不動産だけでなく、収益不動産やオーナー個人に近い資産まで、一つの会社に入っているケースが多く見られます。

会社全体としては大きな評価額がつきますが、これがM&Aの局面で悩みの種になります。

なぜなら、買い手が欲しいのは、多くの場合「事業」だからです。収益不動産や本業に直接関係しない資産まで、丸ごと引き受けたい買い手は限られます。

一つの箱に入っていることが、売りにくさにつながる
事業と資産が混在したままだと、買い手候補が絞られ、結果として良い条件での承継が難しくなることがあります。

手残りを増やす鍵は「事業」と「資産」を切り分けること

では、どうすれば手残りを増やせるのでしょうか。

私たちが重要だと考えているのは、「事業」と「資産」を分けて考えることです。

建設会社には、本業を支える資産と、長年の経営の中で蓄積してきた資産が混在していることが少なくありません。この二つを整理するだけで、承継の選択肢は大きく広がります。

資産を切り分けるとは
本業に必要な資産と、本業とは直接関係しない資産を整理し、それぞれに最適な承継方法を設計する考え方です。

買い手が欲しいのは「会社」ではなく「事業」

M&Aでは、「会社を売る」と表現されますが、買い手が本当に評価しているのは会社そのものではありません。

評価されるのは、建設業としての技術力、人材、取引先、受注基盤、利益を生み出す仕組みです。

一方で、遊休地や収益不動産、有価証券など、本業と直接関係しない資産は、買い手にとって必ずしも魅力とは限りません。

買い手が評価しやすいもの 整理を検討したいもの
・施工体制
・技術者
・顧客基盤
・利益を生む事業
・収益不動産
・遊休資産
・余剰現預金
・本業と無関係な投資資産

こうした資産をそのまま会社に残して売却するのか、それとも事前に整理するのかによって、売却後の手残りや承継後の資産形成に大きな違いが生まれます。

「高く売る」ことだけを目標にすると見落とすことがある

M&A仲介会社は、売却価格を上げることに力を注ぎます。それ自体は決して悪いことではありません。

ただし、仲介会社の報酬は売却価格に連動するケースが多く、「いくらで売れるか」が中心になりやすいという構造があります。

売却価格と手残りは同じではありません
高い価格で売れても、税負担や資産構成によっては、最終的に手元へ残る金額が思ったほど増えないケースがあります。

だからこそ、M&Aだけを見るのではなく、「会社全体の資産をどう次世代へ残すか」という視点が重要になります。

部分最適ではなく「全体最適」で考える

私たちが事業承継のご相談を受ける際、最初に考えるのは「M&Aをするかどうか」ではありません。

まず、会社・オーナー個人・ご家族を含めた資産全体を整理し、どのような未来を実現したいのかを確認します。

全体最適とは
「会社だけ」「税金だけ」「売却価格だけ」を見るのではなく、会社・オーナー・ご家族を含めた全体で、最も手残りが大きくなる方法を考えることです。

場合によっては、

  • 先に資産を整理する
  • 会社を分割する
  • 持株会社を設立する
  • 数年かけて株式を移転する
  • 売却時期を見直す

こうした選択肢を組み合わせることで、結果として手残りを大きく増やせる可能性があります。

モデルケースで考える「手残り設計」

例えば、地方で長年経営してきた建設会社を考えてみましょう。

会社の状況

・事業価値:約7億円
・収益不動産:約2億円
・遊休資産:約1億円
・創業50年以上

この会社を「10億円の会社」としてそのまま売却する方法もあります。

一方で、事業と資産を整理したうえで承継を進めれば、買い手にとって魅力的な事業会社をつくりながら、オーナー側には資産を残すという設計も考えられます。

正解は一つではありません
大切なのは、「会社をどう売るか」ではなく、「会社・資産・税金を含めて、何をどの順番で承継するか」を設計することです。

事業承継で今すぐ着手すべき3つのアクション

事業承継やM&Aは、売却を決めてから準備を始めるものではありません。

税制、会社の資産構成、買い手候補、組織再編などを踏まえると、早い段階から全体像を整理しておく必要があります。

1.「いくらで売れるか」ではなく「いくら残るか」を試算する

まず確認すべきなのは、会社の売却価格だけではありません。

税金、仲介手数料、組織再編に必要な費用などを差し引いた後に、経営者とご家族の手元へいくら残るのかを試算します。

売却する年度が1年違うだけで、税負担や手残りが変わる可能性もあります。複数のパターンを比較することが重要です。

見るべき数字は「売却額」ではなく「最終手残り」
高い価格で売ることと、資産を多く残すことは同じではありません。税負担まで含めた比較が必要です。

2.事業と資産が「一つの箱」に混ざっていないか点検する

本社以外の収益不動産、遊休地、有価証券、余剰資金などが事業会社に入っていないかを確認します。

本業に必要な資産と、それ以外の資産を分けて整理することで、買い手にとって分かりやすい会社になり、承継方法の選択肢も広がります。

資産管理会社への移転や会社分割などが有効な場合もありますが、税務・法務上の条件があるため、専門家による事前検証が必要です。

資産の移動は、売却直前では間に合わないことがあります
組織再編や不動産移転には、税務上の確認や手続き、一定の時間が必要です。余裕を持って準備することが欠かせません。

3.早めに専門家と「全体設計図」を描く

大規模な自社株の譲渡や会社売却は、相手先の選定、条件交渉、財務・法務調査、契約手続きなどに相当な期間を要します。

さらに、会社の磨き上げや資産の切り分けまで行うのであれば、数年単位の準備期間を見ておいた方がよいでしょう。

M&A、税務、財務、相続を別々に考えるのではなく、一つの時間軸に並べた設計図をつくることが、手残りを最大化する第一歩です。

事業承継の準備は「今日が一番早い」
まだ売ると決めていなくても、現在の株価・資産・税負担を把握しておけば、将来の選択肢を増やせます。

建設業経営者に伝えたいこと

事業承継では、「会社を高く売ること」が最終目的になりがちです。

しかし、本当に守るべきなのは、会社を築いてきた経営者とご家族、社員、取引先、そして次世代へ残す資産です。

売却価格だけでなく、売却する時期、事業と資産の分け方、税負担、売却後の収入まで含めて設計すれば、同じ会社でも手残りは大きく変わります。

「いくらで売れるか」から一歩進み、「最終的にいくら残せるか」を考える。それが、これからの事業承継に必要な視点です。

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よくある質問(FAQ)

Q. ミニマムタックスとは何ですか?建設会社の経営者にも関係しますか?

A. 株式や不動産の売却益など、多額の所得がある人に最低限の税負担を求める制度です。制度強化により、数億円規模の自社株譲渡でも影響を受ける可能性があります。実際の影響は所得の内容によって異なるため、税理士へご確認ください。

Q. 会社を売るなら、2026年中と2027年以降のどちらが有利ですか?

A. 大規模な株式譲渡では、実行時期によって税負担が変わる可能性があります。ただし、準備不足のまま急いで売却すると条件を悪化させるおそれもあります。税制と会社の準備状況を合わせて判断する必要があります。

Q. M&A仲介会社へ任せれば、手残りは最大化できますか?

A. 必ずしもそうとは限りません。仲介会社は売却成立を支援する専門家ですが、売却総額を基準に報酬が決まるケースもあります。オーナー家の手残りを重視する場合は、売り手側の立場で税務・財務を含めて設計する専門家を置く方法があります。

Q. 「事業と資産を切り分ける」とは、具体的にどういうことですか?

A. 施工事業、人材、取引先などの本業と、収益不動産や本業に不要な資産を整理し、それぞれに適した保有・承継方法を設計することです。事業だけを譲渡し、資産はオーナー家で保有し続ける方法も考えられます。

Q. 事業承継の準備は、いつから始めればよいですか?

A. 早いほど選択肢が広がります。会社の磨き上げ、資産の整理、買い手候補の選定には時間がかかるため、売却や引退を具体的に決める前から、現状把握と設計を始めることをおすすめします。

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この記事の著者

岡田 聡(おかだ さとし)
株式会社シードコンサルティング 代表取締役
建設・リフォーム業界の中小企業に特化した財務・事業承継・M&Aコンサルティングの専門家。20年以上にわたり500社超の建設業経営者を支援し、100件以上の事業承継案件に携わる。売却価格だけでなく、税負担や資産の切り分けを含めた「手残り重視の事業承継」を支援している。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務に関する助言ではありません。実際の判断にあたっては、税理士・弁護士などの専門家へご相談ください。

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